2012年2月25日土曜日
監禁
バタン、という音がした時、なんとなく嫌な予感はしたのだ。僕は湯船から上がり、浴室から出ようとする。磨りガラスの扉を押しても、それは開かない。
脱衣所からは、脱水機の回る音が聞こえる。僕は状況を把握する。閉じ込められてしまった。
春物の衣類を出し、冬物の衣類を仕舞うため、僕はかび臭い衣装ケースを洗った。風呂場でぬるいシャワーをかけると、プラスチックのケースはすぐに綺麗になった。
少し濡れてしまったシャツを洗濯機に入れ、衣装ケースは洗濯機に立てかけた。スイッチを入れて洗濯を開始した。そうして僕が風呂に入ってる間に、洗濯機は脱水モードに入った。バタン、と音がした。僕は閉じ込められた。以上。
ぎゅうぎゅうと扉を押すと、ほんの少しだけ隙間が空いた。洗濯機に立てかけておいた衣装ケースは倒れてしまい、洗濯機と浴室扉の間にぴったりとハマっている。力を込めて押したので、プラスチックが少し歪んでいる。
身体が冷えてくる。僕はもう一度浴槽に入る。ぬるくなってしまった湯に、熱い湯を足す。それからどうしたものかと考える。
少し考えてから、僕は風呂掃除用のブラシを手に取り、扉の隙間から外を探る。洗濯機の上に、さっき脱いだジーンズが置いてあるはずだ。僕は手をめいいっぱい伸ばして、ブラシの先にジーンズを引っ掛ける。
たぐり寄せたジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、僕は幾分ほっとする。さて、これからどうしたものだろうか。
僕を助けてくれそうな人はそう多くない。1、新幹線で三時間かかる実家に住む母親。 2、今日明日は彼女と箱根に行っている友人。 3、レスキュー隊員。 4、まだ合鍵を持っているはずの元妻。
携帯電話を開く。バッテリー残量の目盛は残り1つになっている。母親も友人も、僕の部屋の鍵を持っていないし、今日は土曜日だからマンションの管理人も居ない。いくら考えても、同じ街に住む元妻に連絡を取るのが、一番良い選択肢に思えた。
彼女は今、どうしているのだろう。
「風呂に閉じ込められたんだ」
と電話をしたら、彼女はなんて言うだろう。呆れるだろうか。あるいは笑ってくれるかも知れない。そうしてこの部屋を鍵を開け、散らかった部屋を見て、
「しょうがない人ね」
なんて言ってくれるのではないだろうか。
携帯電話のアドレス帳から、元妻の名前を探す。緊張で胸が痛くなる。通話ボタンを押す。まず、彼女に今までのことを謝ろう。それから助けを求めよう。それから……
「この電話番号は、現在使われておりません」
電話機からアナウンスが虚しく響く。僕は終話ボタンを押し、選択肢3番を選ぶ。119番への通報。消防隊員はすぐに来てくれるという。
身体はすっかり冷えてしまった。アドレス帳に記されている、元妻の名前をぼんやりと眺める。現在使われていない電話番号。
だけどそれを僕はまだ捨てられないでいる。
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2 件のコメント:
ちょっと強引だったかも~。でもよっきゅんだからいいや。よっきゅんキャワ!
どもですどもです。
色々と強引でしたねえ。あと、さっき気づいたのですが、浴室扉が外開きのお家ってほとんど無いはずですよねえ。脱衣所びしょびしょになっちゃうし。
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