2012年2月29日水曜日

ようやくやっと、アイコン募集。

ものすごく単純で、ものすごーく不細工な見た目ですが、どうにか「てきすとぽい」でログイン・ログアウトの機能を試していただけるようになりました!
でもって、ここまで来てやっと皆様にアイコンの使い道を直接ご確認いただける状態に……。

に、表示される画像のデザインを、募集します。

【募集内容】
最終的なサイズは、

・Twitterアイコン(JPEG/GIF/PNG、最大700kB、Twitter側で自動的に拡大縮小)
  32 × 32 pixel(本人アイコン)
  48 × 48 pixel(タイムラインアプリ連携
  128 × 128 pixel(プロフィール、てきすとぽい初回認証画面)

・favicon.ico(24bit色 or 256色、透過色OK、詳しくはこちらを参照
  16 × 16 pixel
  32 × 32 pixel
  他(24x24、48x48、64x64など)

のものが必要になるのですが、ご応募の時点では、小さめ正方形っぽい画像であれば何でも受け付けます。
複数集まりましたら、例によって多数決で決めさせていただきたいと思いますー。

【募集期間】
3/12締め切り、でお願いいたします。
多数決となった場合、前回と同様、無計画書房の投票機能で一週間程度を予定しています。

【ご応募方法】
Twitter、ブログ、画像投稿サイトなど、どこでもお好みの場所に掲載の上、URLをコメント欄などでお知らせください。

めでたく選ばれました画像の作者様には改めて各サイズへの加工をお願いすると思いますので、なんとなーく、そのつもりでいらしてくださいませ。
加工ツール等お探しでしたら、たぶん無計画書房には詳しい方が大勢おられると思うので、それもコメント欄などでご相談ください。

TwitterアイコンはGIFアニメもOKですので、がんがん動かしたるぜー的なご提案もお待ちしてます!



こんなにたくさんのご提案をいただきました、ありがとうございました!
(こちらに掲載の画像は、ご応募いただいたオリジナル画像を拡大縮小・重ね合わせ加工等したものです。ご了承くださいませ……。)

2012年2月26日日曜日

2012年2月25日土曜日

きみがはじめて恋をするとき、色とりどりの光の乱舞を見るだろう

 耳の奥にへたくそなハーモニカの音がこびりついている。
 僕と三島くんの出会いは幼稚園にまでさかのぼる。僕は幼稚園児の時から社交性に乏しかった。
 一人砂場でダムを造っていた僕に猫除けの網を投げつけ、ドロップキックしてきた元気のよい男の子が三島くんだった。
 三島くんは当時としてはとても珍しいストロングスタイルのいじめっ子だった。気にくわなければ殴るし、特に理由がなくても蹴る。
 三島くんとのつきあいは、二十年の長きにも渡ったわけだけれども、なぜ彼が僕に目をつけたのかは今もよくわからない。
 三島くんのいじめスタイルは、「こいつは俺だけのオモチャ」型だった。
 そんなわけで、ずいぶんひどい目に遭わされたけれど、僕は三島くん以外の人間のいじめられたことがない。
 殴られたの蹴られたりだのは、三島くんを見返したくて始めた実践空手の道場でさんざん経験した。
 僕も三島くんも、この地域の平均より少しだけ下の世帯収入の家の子だった。わかりやすくいえばはっきりと貧乏ということだ。
 僕はぼんやりと生きて、中学を卒業するまで人を好きになったことがなかった。僕も男だから頭の芯がじんじんとしびれるような欲望は起きている時間のほとんどは感じ続けていたけれど、それと恋を間違えるほど僕の頭は鈍っちゃいなかった。当時はね。
 三島くんは、僕よりも速く頭の芯の痺れが、脳みそ全体に及んでしまった。
 可哀想に、中学生の三島くんは恋を知ってしまった。相手はブラスバンド部に籍を置く犬童(いんどう)さんだった。イヌという時が入っている姓だったけれど、全体的な印象は猫っぽかったと思う。結局僕は彼女とは一度も話さないままだったから性格については保証できないけれど。
 僕たちの通う公立中学校のブラスバンド部は、もちろん楽器の貸し出しを行っていた。けれど、僕も三島くんも金管楽器のビカビカが怖くて近づけなかった。当時の僕たちは、カラス並みだった。
 けれども、三島くんは勇気を出した。彼は、家から手垢やホコリでスモークグレーになったハーモニカを持ってきたのだ。「ブルースハープっていうんだ、ドイツ産だぜ」などと三島くんはいっていた。
 ブラスバンド部の主な活動場所は後者の西端。僕たちの通っていた中学校の校舎には両端に避難用の外階段が備え付けられていた。
 三島くんは二階と三階のあいだの踊り場で孤独にラブソングを送り続けた。
 ブラスバンド部からしてみれば、開いた窓の外から調子外れな童謡なんかが聞こえてくるのだから堪ったものではないだろう。
 外階段の下でしゃがんでいると階段を下りてくる女子のスカートの中身がちらりとのぞくことがあるのを気づいた僕は、そんな三島くんを地上から応援していた。ちなみに中学の僕は点から降り注ぐ色とりどりの光の乱舞を心から堪能したとだけいっておこう。
 ……どういうわけか三島くんは自信に満ちあふれていた。力一杯ハーモニカを吹くものだから、地上の僕までその音色が届いてきたものだ。
 三島くんの恋の行方については言わずもがな。基本的に暴力的で傲岸不遜で、自分の家のことを馬鹿にする人間を力で押さえてきた三島くんの失恋はあっという間に全校中に知れ渡った。
 当時は誰もがそれを笑い話にした。
 けれど今日、その話をする三島くんの家族の顔には懐かしむような優しい笑みが浮かんでいる。
 東京で、通り魔から他人を守ろうとして巻き添えを食って三島くんは死んだ。
 ちょうど三年前の今日のことだ。僕のポケットには、熱にあぶられ元がなんだったのかわからないほど変形した金属のかたまりがある。
 HOHNER社のブルースハープの共鳴板。
 火葬される直前の三島くんの手に強引に握らせたせいか、普通なら溶けて流れてしまうはずのものが残ってしまったのだ。
 僕は、三島くんの家族の目を盗んでちっぽけな金属のかたまりを喪服のポケットに滑り込ませたのだ。普通なら親族しか列席しないお骨上げの席に僕がいたのは、三島くんの友達は僕だけで、僕の友達も彼だけだったからだ。
 たった一人だけの僕の友達の、誇るべき最初の失恋の証。
 それを僕はまだ捨てられないでいる。

ウミトハネ


妹がそのチケットを手に入れたのは僕が十歳、妹が五歳の時だった。
「にいちゃん、うみからこれあげる」
僕に両手でさしだしたチケットは『やくそくけん』と書かれてあり、僕がそれがどういう意味で書かれたのかを妹に聞くと、まだ幼い妹は、
「うみはにいちゃんとけっこんするの。そのやくそく」
そんな事を言ってきた。当時もう思春期に入りかけだった僕は、この妹の『やくそくけん』を笑顔で受け取りながら内心ではおかしな戸惑いも感じていた。
両親は、妹の宇美が生まれてすぐに離婚し、僕たち兄妹は母の祖父母に引き取られ、育てられてきた。母は実家である祖父の家にほとんど顔も出さず、宇美が幼稚園生になった年に知らない人と再婚して、それ以来顔を見ていない。
僕たちの親代わりとなった祖父母はやさしかったが、それも宇美のあの病気が発症するまでの話だった。
それは宇美が九歳になった時に始まった。
「兄ちゃん、背中が凄くかゆいんだけど」
そう言って僕に背中を見せた。妹のシャツをまくって背中を見てみると肩甲骨の上に小さな傷ができており、それが赤く腫れていた。
「傷みたい。触るなよ?」
そう言い付けたものの、宇美はたびたび背中のかゆみを訴え、そのたびに僕に泣きついてきた。
ある日、僕が部活から帰るといつものように飛び出てくる宇美の顔が見えない。いぶかしんで宇美の部屋に行くと、宇美はベッドにもぐりこんで泣いている。
「おい、どうしたんだ?」
ベッドの傍まで歩み寄る僕に宇美はいつもかゆみを訴えている背中を見せた。
翅だった。
妹の背中の肩甲骨の上に、それぞれ二枚の虫の翅が生えていた。
現代でも難治とされる慢性上皮石灰翅腫という病気だった。
妹は何度も手術をしたが、取り除くたびに翅が生えてきた。翅が生える以外は特に問題になる症状がない事を理由に祖父母が宇美に治療を諦めるように言ってきたのは宇美が十二歳の時だ。もちろん、医療費が嵩んで家計が苦しかった事を知っていた僕と宇美は、それ以上祖父母を苦しめるつもりはなかった。

五年が過ぎた。宇美は十七歳、兄の贔屓目じゃないがとても美しい少女だった。
だが、背中に虫の翅が生えている妹に近寄る異性はいなかった。 ――というより、妹の方が異性を遠ざけていた。高校一年のときに彼氏ができたとはしゃいでいたが、それもほんの一時期の事だった。たとえ兄でも男である僕には言えなかったのだろう。だが僕には薄々だが気付いていた。宇美は恋人にその翅を見せたのだ。そしておそらく手酷い振られ方をした。
宇美がそうやって苦しい青春を送っている中で、だが僕の方はなぜか幸福だった。今から考えればこの美しい妹を何年も一人占めにできたのだと素直に思えるが、当時の僕にはその幸福を素直には受け入れられなかった。僕は何度も妹にデートを薦めたり、僕の大学の友達で信頼できる奴を紹介したりした。
だがそれが逆効果だったのか、宇美は頑なに異性との接触を拒んだ。
「私にはおにいちゃんがいるから、大丈夫よ」
僕はそんな妹に困惑顔をしてみせながらも、内心では無上の喜びがあった。
四年が経ち社会人になっていた僕は、祖父母の家を出て二人暮らしを始めていた。
宇美は大学三年生で相変わらずの男嫌いだが、それなりに充実した生活を送っているようだった。僕はいつまでも妹と一緒に暮らすのだと思い込んでいた。あいつの背中の翅を受け入れてやれるのは僕だけ、そんな陶酔めいた思いに浸っていた事にも気付かなかった。
ある日、宇美は彼を連れてきた。
石間くん。以前僕はいつものようにデートをすすめた僕と同じ大学のサークル出身の後輩だった。もちろん、僕の前に異性を連れてくるなんて始めての事であり、僕は緊張した。
「宇美さんと交際させて頂くことになりました」
出会いというのは一面で難しく、一面でなんともあっけないものだ。その石間という男は既に宇美と僕だけの秘密だった『そのこと』を知っていた。
「お兄さんにお許しを頂ければ宇美さんと結婚をと考えています」
若い癖にずいぶんと堅苦しい事をいうこの男を、僕は「こいつ、いい奴だから」と褒めた。内心では静まりようのない後悔の嵐が吹き荒れている事を妹は知りもしない。
石間は結局宇美の外見に惚れただけではないのか、体が目当てで背中の翅を見ないフリしてるだけだろう。夜になると僕の妄想は大波となって揺れた。そして朝になると静まった。
僕は石間と宇美の結婚を許した。結局僕の思いとは、僕を狂人にさせる類のものではなかったのだ。朝を迎えたとき、僕は必死で自分をそう納得させた。
宇美は八年前に石間と結婚して、今では一児の母だ。
どことなく僕に似ている。夫である石間と宇美が生まれたばかりの甥を見てそう言って笑った時の事は今でも昨日の事のように覚えている。六歳になる甥には、まだ翅は生えていない。たぶんきっと生えない。
そして去年、宇美にさらに嬉しい知らせがあった。 持病である慢性上皮石灰翅腫の再発を抑える新薬が厚生省から認可されたのだ。石間の後押しもあって、宇美は最後の手術に臨み、その背中の翅と決別した。

「それ、おにいちゃん持っててよ」
麻酔から醒めたばかりの白い顔のまま、宇美は僕に言った。取り除かれた宇美の翅は乾燥して小さく縮んでいた。
「バカゆうな、こんなものいらないよ」
そういって断ったが、宇美の頼みもあり結局その翅はビーカーに密閉されて今僕の部屋にある。それを見るとなぜか僕は、いつも妹の結婚式を思い出すのだ。石間は僕に向けたスピーチでこんな事を言った。
『お兄さん。宇美をずっと守って下さってありがとうございます。これからは宇美を守る仕事を僕にも分けて下さい。きっとこれからは僕とお兄さんが両翼に、宇美を守る天使の両翼になるでしょう』

僕は今も一人でいる。
宇美を僕をつなげていた虫の翅は取り除かれ、僕の心にも一応のケリがついた、そのつもりだった。今年の秋には石間くんと宇美にもう一人家族が増えるそうだ。その知らせを聞いたとき、自分の事のように嬉しかった。
でも宇美の翅が入ったビーカーと一緒に、あのチケットがクローゼットの中にある事を、さて宇美は知っているだろうか。『やくそくけん』 僕はそのチケットを後生大事に持って、一体どうしたいのか、兄として妹の幸せを祈っていたいのか。
それを僕はまだ捨てられないでいる。

<終>

不可捨(すつべからず)

クイックバトル参加作

あやまり堂


結論を言えば、僕はそれをまだ捨てられないでいる。
けれどそれを捨てなくちゃいけないことは、よくよく知っている。

捨てなくちゃ、僕はきっと、このままずるずると、
中学や高校生の当時と同じ幼稚さで、これからの人生を送ることになるだろう。

夢とか、恋の思い出とか、僕の童貞とか。

要するに、そういった「無知だったころに抱いていた憧れ」の数々を、
一つずつ捨てて行くことで、人は大人になって行くのだろう。
現実を知って、自分の才能の限界を弁えて、分相応に生きて行く。

ほどほどの会社に就職して、全然おもしろくない仕事を
与えられるまま、こなしながら、
感動することもない、といって嘆くほどでもない程度の収入を得て、
ささやかな人生を歩んで行く……そこで、きっと、夢なんて捨てきることができる。

宇宙飛行士になるという夢は、とっくに、中学で、理科と数学が出来なかった頃に捨てた。
部活で打ち込んだ、水泳の国体選手とか(それさえオリンピックという夢を捨てた後だ)、
あとは漫画家になることとか、歌手とかバンドとか詩人とか小説家とか。

そういった夢を全部捨てて会社に所属、数年経って、
同僚が企画する合コンか、大学同窓会とか地元自治体の企画するお見合いパーティか何かで、
かわいいところもある、という程度の女性と知り合うだろう。
そこで相手も同じような感想を僕に対して抱きつつも、とりあえず流れで交際することになり、
相手の三十歳の壁か何かで結婚が決り、
やがてラブホテルで少しの軽蔑を浴びつつ(というのも、きっと僕は緊張で失敗するからだ)、
とにかくセックスして童貞を捨てるだろう。

それでその時になれば、昔の恋の記憶なんて全然、どこかへ捨て去っているはずだし、
とにかく、そんなふうにして、僕はひとつひとつ捨てながら、
「自分自身の人生」を見つけることになるのだろう。
だから、そういう「幼稚な憧憬」というようなものは、
順番に、一つずつ、時にはまとめて、捨てる。
捨てなきゃこの社会の大人として生きて行けない。


ところで――。

奈良には今も、大安寺という古い寺がある。
南都七大寺に数えられ、奈良時代には興福寺と並び称されたほどの大きな寺である。

だが都が平安京に移ってからは振わず、火災などに遭うなどしてさびれていた。
しかし、さかのぼれは「大官大寺」や聖徳太子の時代にまでつながるような、
伝統ある大寺であることは事実だ。
そのため、寺では都が遠くなってからも有力貴族を味方につけようと様々に働き、
寛弘四年(1007年)には御堂関白こと、藤原道長を寺へ招くことに成功している。

だがそれも、十年後の寛仁元年(1017年)、大火によって伽藍を全焼させ、
以後は見る影もなくなってしまったのである。

「これではいけない」

というので、名は残っていないが数代に渡って時々の別当や僧住たちが駆け回り、
時には唯一焼け残った本尊の釈迦如来像を持ち出すなどして、各方面で寄進を募ること数十年、
永久四年(1116年)までには、
何とか金堂、回廊、重塔さらに鐘楼などを再建することに成功するのである。

だが。

この永久当時の別当が、私利私欲にきたない男だったからいけない。
せっかく、娘を都の蔵人の妻にすることにも成功したのに、
「寄進された品々を着服しているのではないか?」
と勘づかれて、結局、蔵人との関係が破談、
ついに、往事の威勢を取り戻すところまではできなかったのである。
今もその伝統の割に、知る人はそれほど多くない。
すくなくとも興福寺や、東大寺ほどに、奈良の寺として名を売ることはできなかった。
無残な話である。

……。

まったく関係ない話を書いていた。

僕はこの大安寺の話を、いつか小説にしようと思って、資料を集めて、
ある程度の構想までまとめていたのだけれど、
やっぱりどうしてもうまく小説にするところまでできていなかった。

要するにこの構想もまた、僕は捨てることができないでいる。
今も。

そしてたぶん明日も明後日も、僕はずっと、全然捨てられないでいるだろう。



(了)

監禁


 バタン、という音がした時、なんとなく嫌な予感はしたのだ。僕は湯船から上がり、浴室から出ようとする。磨りガラスの扉を押しても、それは開かない。
 脱衣所からは、脱水機の回る音が聞こえる。僕は状況を把握する。閉じ込められてしまった。

 春物の衣類を出し、冬物の衣類を仕舞うため、僕はかび臭い衣装ケースを洗った。風呂場でぬるいシャワーをかけると、プラスチックのケースはすぐに綺麗になった。
 少し濡れてしまったシャツを洗濯機に入れ、衣装ケースは洗濯機に立てかけた。スイッチを入れて洗濯を開始した。そうして僕が風呂に入ってる間に、洗濯機は脱水モードに入った。バタン、と音がした。僕は閉じ込められた。以上。

 ぎゅうぎゅうと扉を押すと、ほんの少しだけ隙間が空いた。洗濯機に立てかけておいた衣装ケースは倒れてしまい、洗濯機と浴室扉の間にぴったりとハマっている。力を込めて押したので、プラスチックが少し歪んでいる。

 身体が冷えてくる。僕はもう一度浴槽に入る。ぬるくなってしまった湯に、熱い湯を足す。それからどうしたものかと考える。
 少し考えてから、僕は風呂掃除用のブラシを手に取り、扉の隙間から外を探る。洗濯機の上に、さっき脱いだジーンズが置いてあるはずだ。僕は手をめいいっぱい伸ばして、ブラシの先にジーンズを引っ掛ける。
 たぐり寄せたジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、僕は幾分ほっとする。さて、これからどうしたものだろうか。

 僕を助けてくれそうな人はそう多くない。1、新幹線で三時間かかる実家に住む母親。 2、今日明日は彼女と箱根に行っている友人。 3、レスキュー隊員。 4、まだ合鍵を持っているはずの元妻。

 携帯電話を開く。バッテリー残量の目盛は残り1つになっている。母親も友人も、僕の部屋の鍵を持っていないし、今日は土曜日だからマンションの管理人も居ない。いくら考えても、同じ街に住む元妻に連絡を取るのが、一番良い選択肢に思えた。

 彼女は今、どうしているのだろう。
「風呂に閉じ込められたんだ」
 と電話をしたら、彼女はなんて言うだろう。呆れるだろうか。あるいは笑ってくれるかも知れない。そうしてこの部屋を鍵を開け、散らかった部屋を見て、
「しょうがない人ね」
 なんて言ってくれるのではないだろうか。

 携帯電話のアドレス帳から、元妻の名前を探す。緊張で胸が痛くなる。通話ボタンを押す。まず、彼女に今までのことを謝ろう。それから助けを求めよう。それから……
「この電話番号は、現在使われておりません」
 電話機からアナウンスが虚しく響く。僕は終話ボタンを押し、選択肢3番を選ぶ。119番への通報。消防隊員はすぐに来てくれるという。

 身体はすっかり冷えてしまった。アドレス帳に記されている、元妻の名前をぼんやりと眺める。現在使われていない電話番号。
 だけどそれを僕はまだ捨てられないでいる。

信じてなんかいないのに


すべては嘘から始まった。
元々は、たまたま拾ってポケットに入れていた、ただの石ころだった。墓石屋からこぼれたのだろうか、小さな御影石の欠片。
「これは、魔法の石なんだよ。プラズマの力で人を幸せにする不思議な石なの」
転んで泣きじゃくる小さな子どもの、擦り傷だらけになった膝にそっとその石を当てながら、私はそう言った。
子どもをあやすための、その場かぎりの嘘でしかなかった。それなのに。
──子どもは泣き止み、私に微笑みかけた。気がつけば、その子の母親らしき人物が近くに来て、私にお礼を言っている。
別に対した事をしたわけではない。子どもの膝の傷も生々しいままで、手当をしてあげられたわけでもない。ただ、口からでまかせを言っていただけだ。
去っていく母子にお辞儀をしながら、手のひらの中の小さな石ころをぐっと握った。
魔法なんて、何も無い。何も無いのに。
それを私はまだ捨てられないでいる。

母の写真


母は僕が幼い頃に死んだ。
だから、僕は母がどんな人なのかよく知らない。
父に聞いてみると、優しいお母さんだったよ、というのだが、そこにはどこか困惑の色が浮かんでいる。
困惑の色、というのは、どんな色なのか口では説明しにくいのだけれども、明るいのにどこか影を帯びた橙色のような感じだ。
父は時々、母の写真がのったアルバムを見せてくれるのだけれども、僕が一歳になって以降、写真は一枚も残されていなかった。
写真を撮るのを嫌がったんだ。
そう、寂しそうに父は言った。
僕は一歳の頃原因不明の病気にかかった。何件も医者をまわったけれども原因はわからず、有効な治療法も見つからなかった。
それでも父と母は僕を見捨てずに、必死に看病してくれた。
覚えているわけではないんだけれども、苦しい闘病生活は2年ほど続いた。
そして、母は死んだ。
仏壇の遺影には笑顔の母が写っている。
アルバムの写真には笑顔の母が写っている。
だから僕の頭の中にいる母はいっつも笑顔なのだ。
笑顔で僕を優しく撫でてくれる母。笑顔で料理を作ってくれる母。
母のイメージは、ぼんやりとしている。
少しでもそのイメージを固めようとして、母の話を父にせがむのだけれども、父はあまり話したがらなかった。
いつだったか、そんな父への苛立ちが爆発してしまったことがある。
「父さんは母さんのことが好きじゃなかったんだ!」
その言葉を聞いた父は唖然とし、そしておろおろと当たりを見回して、涙を流し始めた。
「違う……違うんだ。私はふたりとも守りたかったんだ」
優しく、そして頼もしい父のこんな姿を見せるのは後にも先にもこの一回きりだった。
そして僕も母の話を聞くのはそれっきりにしてしまった。
父の言った言葉の意味が、何なのかその時の僕にはまだわからなかった。
その意味を知ることになるのは、大学受験を終えた頃だった。進学することになった大学は家から遠くはなれており、一人暮らしをすることになった。
一人暮らしは楽しみだったものの、長年住み慣れた家を離れるのは寂しいし、父の背中は以前よりも小さくなった気がしてなんだか心配にもなった。
僕は家をしっかり見てみようと、家の探索をはじめた。
子供の頃の落書き、身長が伸びるたびにほった柱の傷、父と喧嘩した時八つ当たりにけった壁の穴。
家の模様一つ一つに思い出が浮かんでいた。
それを見つけたのは5回目の探索の時だった。
仏壇の横の戸棚。
それまではそこを開けようなどとも思わなかったし、必要性もなかった。けれどもそこがどうしても気になったのだ。
中には褐色に濁った段ボール箱があった。
包丁と、薬の入った瓶と、褐色にくすんだ小さな服、そして一枚の写真が納められていた。
褐色は、血の乾いた色だった。
「見つけてしまったんだね」
振り向けば、悲しげな顔の父が立っていた。
父はゆっくりと僕の横に座り、懐かしそうに段ボールの中をながめ、やがてぽつりぽつりと語りだした。
僕が生まれた頃から、母は段々とおかしくなりはじめていた。
月並みな言葉で言っていいのかわからないが、育児ノイローゼだったのだろう。
父は仕事が忙しくなり始めた頃で、それに気づくことが出来なかった。
そして、僕の病気。
それが母を完全に狂わせた。いや、それは母から父への最後のSOSだったのだ。
母は僕に毒を飲ませていたのだ。
父は僕の異常に気づいても、母の異常には気づいてやれなかった。
そして。
母は僕を殺そうとした。
母は大量の睡眠薬を飲み、僕を包丁で殺したあとに自殺しようとした。
けれどもそれは実行に移されなかった。
睡眠薬を飲んだ母が僕に包丁を突き立てようとしているところを、帰宅した父が見つけた。
父はとっさに僕を助けようと、母を止めようとした。
揉み合い。
母の力は思いのほか強く、父も必死だったという。
揉み合い。
血。
包丁が母の喉に刺さった。
父は急いで救急車を呼んだが、睡眠薬を飲んでいたこともあり、助からなかったのだという。
「私は、ふたりとも、たすけたかったんだ」
父はそう言って泣いた。

写真は僕を抱いた、笑っていない母の写真だった。

それを父はまだ捨てられないでいる。

言い訳させてください! 不調だったんです、不調だったんです!

エコロジーという名の病が人類に蔓延した。
「地球に優しく、されど快適に」 
 買収された学者と、そのパトロンであった企業は、それが可能と謳った。
 論理武装されたエコロジー商品はウソをついていなかったが、不都合な側面には口を噤んでいた。
 ミスリードされ、それらの商品を贖うことに喜びを見出す人々。
「地球に優しく、されど快適に」
 実際には、その時点の人類の科学力と認識では不可能なことだった。
 多くのエコロジー商品は、より多くの資源とエネルギーを消費し、後進諸国に対する搾取が進んだ。
 後進諸国の人々は生活を成り立たせるために、自らを取り巻く環境を悪化させていくほかはなかった。
 それしか道がなかったから。
 警告する者もいた。
 しかし、エコ商品で潤った巨大資本が、その口を塞いだ。
 先進諸国で、人々が喜んでエコ商品に手を出すとき、地球全体ではダメージの方が上回っていった。
 そんな、ある意味文明の絶頂期において、ポールシフトが発生した。
 地軸が傾き、大地震や津波が都市を破壊し、温帯が寒帯に変わった。
 それはまるで地球が身震いしたかのごとく。
 害虫を身体から払い落とすがごとく。
 人類はその数を大幅に減らしたが、生き残りはもう環境に配慮する、偽の余裕を持たなかった。
 過酷な環境で生き残るため、残存した科学技術を駆使した。
 ありったけのエネルギーを使い、都合の良いように生物を改変した。
 人類の総数は減ったが、生態系を初めとする地球の仕組みは、さらに激変していった。
 この後、何が起こるかは誰にも分からなかった。
 人類は生き残るために、予測不能の道を突き進んでいくしかなかった。
 人間。
 それを地球はまだ捨てられないでいる。


なんとか参戦だけは果たしたという体……。

2012年2月20日月曜日

クイックバトル


クイックバトルを開催したいと思います。
たたき台ですので軽い気持ちでたたいてみてください。
あんまり強く叩き過ぎると壊れるかも知れませんが。

1.ルール
 1時間以内に小説、詩、コラムまたはイラストを書くor描く。
 他には写真とか朗読とか歌とか論文とか彫刻とか……etc.

2.参加資格
特になし。web上に作品をアップし公開できる方
作品はコメント欄に「著者名」、「作品名」、「作品の載ったページのアドレス」
を記載の上投稿して下さい。


著者名:茶屋休石
作品名:自己犠牲
アドレス:http~

3.日時:25日の夜10時(本日)。

4.予定
21:55/主催者がお題を選定。
22:00/お題発表
23:00/終了。15分の推敲、投稿タイム開始
23:15/締切。他の人の作品を読みつつ反省会ハングアウトへ

5.お題

本日のお題は
⑥末尾文章「それを僕はまだ捨てられないでいる。」(私、俺、名前、etc...も可。) デス!


お題は何がいいですかね。
三題噺が無難ですが、書き出しとか書き終わりとか面白そう。
個人的には最後の1文をお題としてやってみたいのです。
文章系以外の作品であれば、その文章を想起させるような作品、あるいは連想させる作品という形で。
とりあえずコメント欄やtwitterでお題を募集します。

記載例:1
三題噺「女装、だもん、トラウマ」

記載例:2
末尾文章「すべて私が悪いんです」

記載例;3
最近しんどかった出来事をまじえつつ書いたもの

*現在までに集まったお題
①書き出し文章『すべては嘘から始まった』 ジュニーさん  (2/21)
②末尾文章『あとに残されたのは一輪の花だけだった』 茶屋 (2/22)
③末尾文章『こうして○○は変わった』○○は任意。 シゾワンぷーさん (2/22)
④書き出し文章『『それはありえない誤算だった。』 雨森さん (2/23)
⑤三題噺「母子、御影石、プラズマ」 UCOさん (2/23)
⑥末尾文章「それを僕はまだ捨てられないでいる。」(私、俺、名前、etc...も可。)  UCOさん (2/23) 
⑦末尾文章「……3、2、1。」 UCOさん (2/23)
⑧三題噺「悪の組織、箱、ロープ」 山田さん (2/24)

6.反省会ハングアウト
クイックバトル終了後、ハングアウト反省会を開催します。
参加は自由。
ただし、あまり私を虐めないで下さい。

7.代理の方募集
今のところ、私が進行をつとめさせていただこうかと思いますが、
バトル当日私が急用で来れない可能性もありますので、代理というか
共同の主催者様を募集したいと思います。
ちなみに私は遅刻すると天罰がくだるようです。

以上、ですかね?
なにか足りない事とかありますかね。

ご意見、ご質問、ご指摘等ございましたら、コメント欄かツイッター、もしくはお電話FAX、直接殴りこみに来ていただいても構いません。
お待ちしております。




2012年2月17日金曜日

らくがき

先日のハングアウトで描いたらくがき
いくつか保存していたので、貼ってみたりします。




かわいいゆーこさん






にゃごや
あにゃまりどう





てきすぽたん

2012年2月16日木曜日

マイコプラズマ2012

冗談も通じないほどに
暴走する感情

感じる声の温度差に
目を覚ますバレンタインデー

未練がましく
地図を眺める
どのルートを通っても
バッドエンド
だからずっと
入口でうろうろしていた

この道に
真っ白なチョークで
はっきりと線を引いてくれて
ほんとうにありがとう
皮肉なんかじゃないよ
ほんとうにありがとう



この胸の痛みは
マイコプラズマ肺炎だったんだってさ
この息苦しさも
この倦怠感も
全ては
身体からくるもの

こころなんて
存在しない
どこにも

変なの(1)

ロールプレイングゲームをノートに模写した。ストーリーは魔王にさらわれた姫を勇者が救う単純なものだった。ページの後ろにオリジナルモンスターのキャラクターを描いた。敵と遭遇したときは鉛筆の後ろにサイコロを作り、転がして、ダメージの数値を設定。攻撃の効果音も自ら「デュクシ!」と発した。新しい街、洞窟、武器や防具も描いた。アイテムや魔法を使用することで主人公の絶妙なパラメータの変化に、冒険の世界観が深くなっていった。遊んでくれる友達は夢中になってくれて、休憩中に集まってくれた。最初はよかったが、遊んでくれるスピードと、シナリオ制作のスピードが近づいてくるようになった。次第に面倒くさくなって最後の魔王との戦いは私との腕相撲になった。私は左利きなので、勝てる友達が誰もいなかった。よって魔王は、今もここに現存している。

2012年2月14日火曜日

ジャッジメント7.-電子の人間正行-

電子の波を泳いでたどり着いた。
彼は小説家になりたかった。
投稿を続け、見てもらうことを続け、見つけた先が、大型掲示板だった。
ここなら評価ももらえる、ここなら沢山の人が見てくれる、ここなら同じ思いの人がいる!
狂喜乱舞で固定のハンドルネームを作ったのは最初の一カ月。
一カ月過ぎれば実力差に気付き、自然と羨みから毎日固定ハンドルを外し、才能ある人たちを中傷した。
最近そいつら現れないなあ、もっと落ち込めばいいのに。
そんな矢先、彼は工事現場を散歩中に通りがかり、上から鉄板が落ちてきて押しつぶされ、あっという間に死んだ。

電子の波、知らない本名 、知らない相手、知らない作品、知らないこと、いなくなった相手。
では裁判を始めます。

「うっわ、さむう」
たどり着いた先は、まるで小説の世界。
ライトノベルにありそうな設定だな。
彼はそう思い、目の前の大きな金色の天秤を眺めた。
上から何か落ちてきて当たった気がする。
でもまあいい。きっと夢を見ているのだろうし、夢からさめれば毎日パソコンに張り付いて、けなし続ければいい。
ブログのあいつも嫌だな、謙遜してるくせに本当は自信あって投稿してるんだぜ。そういえばコテハンのあいつは、デビューしたんだっけ。あー、ムカつくムカつく。
後は自分を持ち上げれば、いい。
金色の天秤の前に立ってみた。
右手に白い扉、その前に白い本を持った女と白い翼の女、計四人。
左手に黒い本を持った黒い翼の男が計四人。天秤の上に鎌を持った男と巨大な羽をもった女。
「寒いなー、なんだよ、暖房もねぇの?夢なんだから仕方ないけど」

黒い本を持った男が、声をあげた。
「彼の名は、相沢正行。年齢は二十七。死亡原因は事故死」
「なんだなんだ、俺が死んだって何だよ、変な夢だな」
正行は体を震わせて、息をつく。息は白い。
「彼は死んでいることに気づいてないのでは?」
他の白い服の女が、正行を見て、言う。
「何だよ死んだなんて冗談じゃねぇよ、嫌な夢だな、早く覚めてくれよ」
「お黙り!」
突然天秤の上から、鋭い喝が入る。
「!怖!なにお前」
そういいかけたところで、天秤の上の鎌を持った男が、黒い本を持った男に指示をする。
「続けなさい」
「はい」
黒い本には色々なことが書かれているらしいことは、少し見えた。
「英語と日本語なら分かるんだけど、なに書いてあるの」
覗こうとやって来た正行を、黒い翼の隣の男は、軽く制した。
「邪魔すんじゃねぇ、お前は死んだんだ、死後の裁判だ」
しかし正行は分かっていない。
やはり死んだことにも気付かず、興味を持って本を取り上げようと手を伸ばした。
「え、そういう設定なの?何それ面白い」
「うるさいので黙らせなさい」
鎌を持った男は、呆れて彼を黙らされるように指示をする。
制した黒い翼の男は、軽く正行の口に向かって、人差し指を向けた。
それから一切声が出せない。出そうとしても、喉が焼かれるように声が出せない。暴れようにも、寒すぎて何もできない。
寒さに震え、正行は天秤の前まで連れて行かれた。
「えー…彼が殺した生物の数は四万、そのうち人間は、二人。直接的には殺してないのですが」
(殺した?)
正行には覚えがない。
両親は健在、死んだ祖父母は老衰だし、この前死んだ従兄弟だって病死。
(大体自宅警備員の俺が人を殺せるわけ…)
「大 学卒済みの二十七歳、この時代ではよくいるパターンですが、よくいる仕事をしない人間です。だが夢を持っていた模様。それが小説家。この時代には、作品を 発表する場がありますから、そうして夢を握る人も少なくありません。しかしそれ故に、電子の波で調子に乗りすぎた。彼は気づいていません、二人、殺したこ とに」
驚くほど自分のプロフィールを知られていることに、正行は焦りを感じる。
しかしやはり声が出ない。
「では、次は私が」
白い翼の女が、白い本を読みあげた。
「彼は、大変優秀な頭脳を持っています。両親に恵まれ、いい大学を卒業しました。しかし就職せず、そのまま。かといって、両親の手伝いくらいはしています。彼は、とても友達が多かった」
…多かった。
(そうだ、俺は友達が多かった。面白い奴とはいつもつるんで、遊んで…、あれ?)
そこで正行が気付いた。
全てが過去系になっていることに。
(…実際ここ一年であった奴何人?皆は?結婚、就職、夢を叶えて言った奴ら。俺、それで嫌になって、引きこもった)
いつからか、就職活動もうまくいかず、コミュニケーション不足から、友達をなくした。なくしていったのはいつか。
インターネットにはまりこんで、気にいらない人間の中傷を始めたあたりから。
俺は凄い奴だ、大学だってお前らと違う所でてるし、だから俺は絶対賞をとって、有名な小説家になるんだ。
そう言って…?
「お待ちを。こちらの本に書かれていることを」
黒い本を持った男は、ページをめくった。
「彼がもっとも罪深い所をあげます」
(なんだよ、俺は何もしてないって!)
寒いな、寒い。
下を向いたあたりで気づいた。
自分の服が、真っ赤に染まり、段々黒に変化しているのを。
散歩中に事故に遭って死んだと言っている。
散歩中、白いセーターを着ていた。明るめのジーンズ生地のズボン。こんな色になるのはあり得ないはずだ。
散歩中、突然黒い影が落ちてきたのだけは何とか覚えている。
着ている服はところどころ白が見える程度で、ほぼ黒と赤に染まるセーターに、悲鳴を上げようとして出来なかった。
自分の肩を抱いたその手も、乾ききってない血で赤く染まっている。
叫ぶことができないのは、単純に先程黒い翼の男に妙なことをされて、悲鳴が出せないだけ。
寒いのは、自分の血で濡れて、そこから風が入りこんでいるからだ。
「間接的にとはいえ、人を二人殺しているところです」
「どういうことですか」
白い翼の女は、疑問を投げかける。
それに対して、黒い本を持った男は、軽く頭を抱えた。
「…、読めますか?」
そう言って、隣の黒い翼の男に、本を見せる。
何度か見せられた相手は首をかしげて、さらに隣へ本を回す。
一体何が描かれているのか予測もつかないことと、自分の姿に、正行はパニックに陥った。
しかしそれを気にも止めず、彼らは話をつづけた。
「あ、え?ああ、これ、この時代特有のだな、固定ハンドルネームって奴だ。ほら、絵描きとか物書きが別の名前使うだろう。それに似たようなの。コテハンとかHNとか言われている」
なるほど、と、本を返してもらった黒い翼の男は、説明を聞いて頷いた。
「だから、そのマサ ◆3vCtYjWPfoって奴が、そいつの電子部分での名前。本名じゃない」
「ちょっと何言ってるかわからないです」
白い翼の女が、口をはさんだ。
「お前絶対知ってるだろ」
黒い翼の男がそのフレーズに、反応する。
白い翼の女は、くすくす笑い、頷いた。
「まあ、色んな時代の人がここに来てますから。知っておいて損なことはないです。面白い時代ですから、裁判の仕方もかなり風変りになりますね」
「電子?少し前の、テレビや電話の時代とは違いますか?」
他の女が質問をする。
「それを全て取り込んで別のものが生み出された、そんな時代です。一言では説明できません。時代の流れがあまりにも早すぎて、ついていけない部分が多いです。彼らなりの固定観念も簡単に変わってきます。それより裁判の続きをどうぞ」
確かに中世的な雰囲気には似合わないだろう。
困惑し続ける正行をそのままにして、話を続けた。
「すみません、私には読めませんので、代理で貴方に話していただきたい」
黒い本を持った男は、先ほど固定ハンドルネームに詳しい男に渡した。
どうやらわけのわからない文字と数字の羅列に、なんて発言すればいいか全くわかってないようだ。
「はいよ。正行、喋っていいぞ」
人差し指を彼の口の前で動かすと、正行は、喉を焼かれる痛みがなくなった。
が、体中真っ赤。すっかり言葉を失う彼に、皆の視線が集中した。
「この『大型掲示板の創作文芸板』って知ってるよな?お前が、マサ ◆3vCtYjWPfoって名前で、パソコンを使って出た所。見てて面白かったけど、顔の知らない奴と会話もできる、雑談もする」
その言葉に、正行が顔をあげた。
べっとりと血のりのついた手は、少し冷たい。
壊れた人形のように、首を縦にふる。
知っているもなにも、そこは自分のすみかだった。電子のなかでの、自分の家であった。
「知ってるなら話は早い。そこの、krs ◆fZAxfdd8JU、RED ◆bljf0KurQwは、お前のライバルだな」
言いづらい名前だな、と男は思いながら、読みあげる。
◆より前が彼にHN、◆移行の意味不明な文字列は、彼らがネットで本物ですというような記号と思えばいい。
「あ、最近来てない、のは知っているけど…?」
その二人は、ずっと正行が執着して、作品を発表すれば、他人を装って、評価を散々にして荒らしまわった。
羨ましかった。
他人を魅せる文章、穏やかな性格、中傷されても逃げない。
そんな本名も顔も何も知らない二人は、一カ月当たり前から、急にその電子の中で顔を出さなくなった。
「どうせ忙しくてやめたんだろ?」
クス、と、本を託された男は笑う。
だが目は笑っていなかった。
「その二人、自殺したんだよ」
にっこりと歯を見せて笑う黒い翼の男の言葉に、背筋が寒くなった。

しばらく、その場に言葉は流れなかった。
ようやく口を開いたのは、代理として黒い本を読みあげた男だった。
「お 前のやらかしたこと、全て書かれてある。まあ、お前だけじゃないさ。奴らを自殺に追いやったのは。krs ◆fZAxfdd8JU、まずこっちな。ブログ持ってたよな。お前はそれを知っていた。小説を投稿して、見てもらう。確かそう言うシステム。たまに日記 か。krs ◆fZAxfdd8JU。こいつの本名は、大貫玲子。女だ。詳しいことは省くが、そいつは中傷に耐えきることができなくなって、手首切って自殺した。何が 正しいか、何が自分で悪いか、何をしても人間を信じられなくなった」
「…」
「この時代でありがち、顔が見えない、住所も分からない。性別 だって分からない。性格だってまともに知らない。彼女は全てを小説に捧げて、低学歴なことも気にして、迷った矢先にお前と出会った。うん、そんなもんだ。 仕事、家庭、何もかもうまくいかなかった時期、支えだった小説に何も希望が持てなくなって、自殺したんだと」
ふむ、と彼らは頷いた。
正行は言葉が出ない。
「ですが、中傷したのは一人ではないのでしょう。彼のせいですか?」
白い翼の女は、彼をかばうようなそぶりを見せる。
本を託された男は、何度か首を横に振った。
「書かれてるそのまま出すと、こうなる。タイミングが悪かった。が、その中の一人に、正行がいた。そんくらいかな」
「気軽に意見を聞ける反面、人間の妬み、つらみ、羨望、全てが直接やってきます。疲れている時に、自身のあった作品を貶されて、耐えきれなくなった」
本を託したほうの男は、すらすら告げる。
「だからよ、直接的に人間殺したには変わりねーんだけど、こいつらも人間的に弱すぎるよな。時代と国によって全く違うとはいえ」
話を茫然と聞いていた正行は、今度は手を眺めた。
血は乾いてきて、パラパラと粉になって落ちていく。
「そんな話、あるかよ…、死んだとか、しらねぇよ…」
羨ましいだけだった。
何もかもうまくいってるような、そんな文章に、苦しみなんて書かれているはずもない。
自分より学歴も低くて、それでもそんな文章を書いていたことすら知らない。
堂々と高学歴を自慢していた自分自身の言葉のたびに、彼女がコンプレックスをいだいていたなんて知らない。
「いや、ある…」
正行は記憶を遡る。
彼女がいなくなる直前、いつものように賞賛と中傷であふれかえるブログを見て、せせら笑った。
ほら、称賛より中傷が多い。
コメントを数えて、称賛の方が少なかったことに満足を覚えた。
名前を変えて、媒体も変えて、「つまらない、読む価値もない、二度と現れるな」と、かきつづる。
自分以外にも彼女に嫉妬した人は多い。
ブログはその直後に止まった。
コメント欄のない最後の日記らしきものには、たった一言だけ書かれていた。
『諸事情により、以降更新できません』
背景が白多めの可愛らしいそのブログに、赤いその文字は妙に頭に残った。
「…え、何それ…あれ、遺書なの?」
もう書かないんだ、そう思っていたが、何かおかしいとは感じた。
でもそれを振り払った。ただただ喜んだ。ライバルが減ったことを、ただ喜んだ。
だって、彼女のころや私生活なんて全く知らないのだから。
自分が書いた言葉が彼女の心に刺さっていたなんて全く気付かなかった。
「あともう一人の方な、こっちはお前か原因じゃないんだけど、あいつはリージ=ミリアス、ここにかつてきた男だよ。日本語も結構出来た、お前にとって外人だ」
「ん、ああ、彼ですか」
名前を聞いて、皆が騒ぎ出す。
正行にはよくわからないといった様子で、一斉に話をしだす周りを見ていた。
「リージは確かに自殺でしたね」
「そうだな、あいつ、趣味で小説書いていたっけな。だが自殺原因は別だろう?大体未発表の作品が多かったじゃないか」
リージのことを知っていることに驚いた正行は、恐怖にかられる。
「何だ、なんであいつのこと知ってるんだ、なんなんだ、何があるんだ、俺は何をした?」
人が死んだ、軽い中傷。気晴らしに書いた悪い噂、それらが重なって、人が死んだことを知った正行にとって、二人目も同じ末路をたどったことは怖くて仕方なかった。
裁かれるからとか、そういものではない。
何となくやったことが、自殺の原因につながることが、怖くして仕方なかった。
ただ、自分も死んだ事実は、認めざるを得ない。
なぜなら、この夢が覚めることもなく、全て言われていることが事実なのだから。
明晰夢にしたって、タチが悪すぎる。
寒い、ここは寒すぎる。
「リージは借金を抱えていた。それで家族と別れた。その合間合間に、そこにきていたらしいな。日本人として過ごしていたらしいが、お前もうすうす気づいていただろう。リージが趣味で書いた小説」
正行はまたも記憶を遡る。
突然現れた、その人間。
時々文章が日本語としておかしい時があったし、日記を見てみれば、英字で書かれていた時がある。
後で分かったが、それらはもとは英字で書かれていて、彼の友人が日本語に訳していた。
日本語が不自由だとは感じたが、彼の書く小説は幻想的で、その中に人間の本音が見え隠れしていた。
きっとこいつ、自分を追い越す。
そう思って、彼にも。
「リージのその後を知らないとすると、やはりリージとほぼ同時期に死んだのでしょうか、彼は」
羽をもった女は、手元に置かれている紙を見ながら、白い本を持った女に話しかける。
「そのようです。リージ死亡一ヵ月後のことなので」
「貴方に、リージがどうなったか教えよう」
本を託した男は、丁寧な口調で、正行に近寄った。
「彼 は、自殺して一年は経過してからここに来た。貴方がここにいるのも、死んでから随分たっただろう。彼の小説は、元妻と友人たちの手によって、書籍化され、 世界中で大ヒットを生み出した。白い本が止まらないほどの賞賛だった。彼は輪廻を自分から拒んで、ここにいる。白い扉の向こう、リージはずっと書き続けて いる。今まで裁判してきたなかで、随分と異例な例。実際、私たちも暇なときに読んでいる」
正行は、気がつけば、地面を強く踏んでいた。
悔しい、悔しい、せっかくいなくなったのに、自分が死んだ後にヒットしたなんて。
「何だよ、死んだくせに、ずるいじゃねぇか!!自殺した弱虫のくせに!」
苦々しい言葉が、腹の底から込みあげ、言葉として出てきた。
「それが貴方の本音です」
優しい声で、男は言った。
「!!」
出る杭は打たれる、打たれて打たれてそのうちいなくなる。
そうして、何人もその狭い電子の波から消した。
狭い、ということでまた気付いた。
「…狭い」
自分がいたのは、インターネットのごく片隅。
そのごく片隅で、叩いては満足してを繰り返しただけ。
それが実際どうだろう、たった狭い所で、タイミングが悪く自殺した女もいれば、別のことが原因で死んで、その後世に出て、称賛された。
「じゃあ俺はなんなんだよ、間接とはいえ殺して、引きこもってずっと書いてきて、お前らは知っているのかよ、俺がずっと努力してたこと!」
しん、と静まり返った。皆の冷たい視線が、正行に突き刺さった。
「貴方は気づいていますね?」
「何がだよ」
いらだたしげに、肩に置かれようとした手を振り払った。
羽の生えた男は、目を伏せ、言葉を続けた。
「先ほど述べた人たちにも人生があり、彼らもまた努力というものをしていたこと。貴方達の世界では綺麗事と言われる言葉を、貴方に贈りましょう」
正行はその場にへたり込んだ。そして血まみれの手で、自分の顔を覆って笑い出した。
さすがに、皆は戸惑った。
「っは、なんだ、なんだ、皆同じじゃねーの!!バーカ、俺馬鹿だな!あーあ、何でこんな簡単なこと、気付かなかったんだろ!!」
顔が見えない相手、本音を隠す電子の波に書かれる言葉、それでも発表し続けたライバルたち。
「あー、そうかそうか、俺は本当、馬鹿だ!!そりゃ死んで当然だ!自殺に追いやってんだからな!」
ゲラゲラと壊れた笑い声が響き渡る。
「なあ、裁判って言ったけど、これって何の裁判なんだ?その扉の向こうには何があんの?もう好きにしてくれよ、いきなり死んでいきなり、あいつらの死んだ原因とか苦労とか今更知って、馬鹿みてぇ!俺って、井の中の蛙だったんだな!!」
覆う手の隙間から、涙がこぼれた。
人を殺した、他に原因が重なったが、原因の中の一人が自分。
人が死んだ、彼は死んでから真に世界中から評価された。彼の実力は本物だった。
人を殺した、何気なく書いた、羨望と嫉妬にまみれた言葉。
「小説家目指してたのにそんなことすらわかんない、馬鹿みたいだなあ。いやー、馬鹿なんだろうなあ、俺」
笑い声は段々小さくなっていく。
それを見ながら、羽をもった天秤の上の女は、指示を出した。
「では、本を天秤へ」
天秤の上に、黒い本と白い本が置かれる。派手な音を響かせて、傾いていく。
もう片方に羽を乗せると、地獄を示した。
「と、言うと、彼は地獄ですが」
「輪廻はさせるべきでしょう」
「輪廻なあ。どうする?一応反省はしてるみたいだが?」
ぼそぼそと相談を始めるが、彼らは輪廻を選んだ。
「俺、地獄行くの?」
そこに割って入った。下を向いたまま涙を流し続けていて、力なくその場で座り込んでいる。
白い翼の女は、彼の肩をたたいた。
天秤の上から本は消えてなくなる。
「残念ながら。ですが、すぐに輪廻させられるでしょう」
「そうか、そうか、輪廻か。生まれ変わったら、もっとまともなことやってやんよ。あ、そうだ。」
立ち上がり、黒い翼の男に、黒い扉の前へと連れて行かれる。
うつむいていたが、振り返ると、正行は笑った。
「REDことリージは、そっちの白い方にいるんだろ?その先に何があるか知らないけどさ、一言頼むわ」
白い翼の女は頷いた。
「ではどうぞ」
「俺、マサは、REDを応援してるってよ」
黒い扉が開かれた。真っ赤に煮えたぎる血の海。
それを眺めて、正行は頷いた。
「うっわ、熱そう。ずっと寒かったから、俺にはぴったりだな。んじゃ」
自分からそこに飛び込む正行を見た後、黒い扉は閉じられた。


「はい、マサさんですか。いましたね、懐かしいです」
リージは、花が舞い散る園にある、石で出来た机の上で、いつものように小説を書いていた。
周りに輪廻を前に駆け回る子供や、リージの小説を待つ人たちがいる。
白い翼の女は、正行の最後の言葉を、リージに告げた。
「そうですか…、応援してくれるとは嬉しいです。マサさんは怖い人だと思っていましたが、そうでもなかったんですね、本当、インターネットというのはよく分かりません!」
書きあげると、白い翼の女に紙をつきだした。
「どうぞ、新作です!生まれ変わったマサさんにも、私の遺した小説を見てもらいたいです!」



ジャッジメント

ジャッジメント7と8の内容が決まったので同人はなし!!なし!!なし!!

ジャッジメント8
平沢進のUNDOをどうぞな感じの話。
要するに極限の飢えによって仲間を食っちゃったっていう。
ハーラセイラー!ハーラセイラー!
という内容から、海軍の話か…。井上さんが海軍少年兵だったからその影響も強い。
8の人の死因は老衰。

2012年2月11日土曜日

秘伝の味


――三十年以上は歴史のある老舗、といった印象だった。
店の表には屋号など出しておらず、看板には太い崩し字で『らーめん』とある。一見して特別関心を引きそうにない、どこにでもある普通のラーメン屋だった。
だが、私は店から匂いたつ香りによって吸い寄せられてしまった。

B級グルメの口コミサイトに素人記者として参加し、各地の飲食店の料理評を書き初めて四年になる。四年も続ければ慣れが生じてしまうもので、システムエンジニアという本業柄出張が多く、各地の飲食店を巡って来た私はすっかりその手のグルメというものに食傷してしまっていた。そのうち何を食べても料理批評を並べてしまう悪い癖がつき、それもあって二ヶ月から口コミサイトを遠ざかっていた。
そんな私が珍しく食指を動かしたのが私の住いのごく近所にある何の変哲もないラーメン屋、というのが我が事ながら不思議だった。『らーめん』。なんて素朴で味気のない店だろう。この不思議を楽しんでやろうという奇妙な気持ちが生まれると、決意してのれんをくぐりアルミ製のサッシを開けて店内を覗き見た。
平日の昼前だったが店の中は薄暗く、本来書き入れ時にも関わらず客の一人もいなかった。昨今の外食業界の過酷さを鑑みるとさして珍しくもない光景ではある。
「いらっしゃい」
店の奥のカウンターには一人の若い男が木槌で豚骨を砕いていた。店舗の老朽具合から老人の姿を想像していた私には少し意外だった。
「やってます?」
「やってますよ、どうぞ」
若い店主が手を差し出しカウンターの席を勧める。ひとまずほっとした。
席につくとすぐにお冷が出てきた。コップが綺麗に磨かれている事を確認して一口だけ喉に流し込む。
「じゃあ、ラーメン下さい」
初めて訪れた店ではその店の一番のお勧め料理を食べる、これは私に課しているつまらないルールのうちのひとつだ。この店はラーメン屋だから無論、私はラーメンしか選ばない。
「ラーメンですね」
はっきりした声で若い店主が応えた。薄暗く、まるで昭和から時間が止まってしまったような古い店の中で、若く溌剌とした彼だけが異分子のように見える。
「随分と風格のある店だけど、何年やっているんですか?」
風格という表現は、単純に古い店だとは言い辛かった私が苦心の末に編み出したものだ。
「ウチの父の代からやってますから、もう三十五年にはなりますね」
やはり、と最初の予見の当たった私は内心でほくそ笑んだ。
「長いんですねえ」
「ええまあ。ただ、僕が厨房に入ったのはほんの二年前なんで、味にまで風格があるかどうか――」
そう言うと店主は苦笑した。笑った顔はまるで学生のようだ。
「プロがそんな事言ってちゃ駄目でしょ」
私は笑って青年をたしなめる。この屈託のない、まるで商売気と無縁な様子の店主に私はなんとはない好感を抱いた。
しばらくの時間の後で私の前に丼が置かれた。
「お待たせしました。ラーメンです」
象牙色の地に薄緑の唐草をあしらった丼からは、豚骨スープの香りが立ち上る。久留米風の白濁スープと違い強烈な匂いはない。どちらかと言えば、カップ麺に近いような膨らみのない香りであり、私は内心失望した。
「じゃあ、いただきます」
レンゲを手にとると丼からスープをすくい、舌へと運ぶ。その瞬間私は自分の第一印象が間違っている事に気づいた。
「う……」
思わずうめいた。そして出ようとする言葉を飲み込んだ。
……旨い。それまで凡百とも思われたスープは、一端舌の上に広がると、まるでデキャンタージュされたワインのように香りの花が開く。いまだかつてこのようなスープを味わった事などなかった。奥深くからあふれ出る野趣あふれる香り、そしてほのかな酸味とともに舌をとろかす甘みは、私を魅了したと言っていい。
続いて麺をすする。軽いウェーブのかかった細打ち麺だがコシは強くなく、あくまでスープの味わいを殺さぬように仕上げられている。麺と、麺にかかったウェーブがからめとるスープとの味の統一感はすばらしく、私は別世界に招待された心地になった。具であるチャーシューは味付けを塩だけに留めており、これもスープを邪魔しないための処置だと感じた。ただ一点異質なのがメンマだった。
甘いのだ。醤油とごま油で煮絡めてあるがとても甘い味付けのこのメンマは、一定方向へと流れてゆくスープの味に、スタッカートのような独立したリズムを与え、それがアクセントとなっている。その事によってスープはよりその味わいを引き立てられ、食する者を更なる桃源郷と誘うのだ……。
丼が空になるのに時間はかからなかった。私は夢中でスープを飲み、麺をすすり、具を食べ、またスープを飲んだ。
「――旨かった。こんなラーメンは初めて食べたよ」
仮初めの幸福感が満ちる。この店を選んだ自らの直感が正しかった事もあわせ、すっかり気分の高揚した私は賛辞を惜しまなかった。
「そうですか、ありがとうございます」
だが、私のテンションの高さと反比例するかのように店主であるはずの若者の反応は冷ややかだった。私は自分の持ち合わせる全ての言語表現を尽くしてこのラーメンを褒めちぎった。それは正に素人グルメ記者としての晴れ舞台と言っても過言ではなかった。だが私がこのラーメンを誉めれば誉める程に若者の表情は曇ってゆくように感じられた。
「お客さん、ラーメンにお詳しいんですね。もしかしてご同業ですか?」
「いやいや。ただのラーメン好きですよ」
私はなけなしの自制心で『グルメ記者です』などと名乗ろうとする軽薄な自分を抑えた。
「白状しますが、このラーメンは父が考案したラーメンなんです」
「ほう、お父さんの……」
なにやら事情がありそうだ、そう私は思った。そうでなければあれほど誉められながらこれほど寂しい表情はすまい。
「父はもう亡くなったのですが、私は父が作ったこの秘伝のスープを引き継いで店をやってきたんです。ですが、商売を続けると自分と父との料理人としての差、と言いますか、力量が悔しいほどに分かってしまいまして――」
なるほど、と私は頷いた。親子二代で仕事を続ければそういう事もあるだろう。特に真面目で善良な息子ほどそう思うものだ。
「――実は今日でもうこの店を閉めようと思っているんです。別の場所でやり直そうかと」
「え?」
それまでの晴れ晴れした心が暗雲に閉ざされてゆく。
「……閉めちゃうんですか?」
これほどのラーメンが移転してしまう事は悲劇でしかない。
「ですから、最後にお客さんから感想をいただきたいんです。……僕が作ったオリジナルのラーメンの。もしこれが父のラーメンよりも不味かったなら、この店を畳むつもりです」
「……役目重大ですが、引き受けましょう」
本心を言えば、亡き父のスープを守れと言いたかったが、私は黙ってその申し出を引き受けた。
この店主は若い。自分の可能性を試したいだろうし、外の世界で成長する機会もまだまだある。
「では――」
厨房に立つ青年店主は右端にあった寸胴鍋の蓋を開けた。すると、そこから凄まじい獣くささが湧き上がった。豚骨にしては強すぎる香りだ。先ほどと同じような手つきで青年が丼にラーメンを仕立ててゆく。不安に駆られながらも私は黙ってその様子を見守った。
「――お待たせしました」
私の前に据え置かれたラーメンは先ほどの彼の亡父のラーメンと一見して同じなように見えた。だが丼から上りたつ香りが全く違う。亡父のラーメンは芳醇かつストレートな骨の香りだったが、息子のラーメンからは魚介の香りが匂うのだ。二つ目の寸胴鍋を開けた時に漂いだしたあの強烈な獣臭はどこに消えたのか、そう思うほどに綺麗に整えられた芳香だった。
「では、いただきます」
レンゲを丼へと差し入れてその白濁した液体を舌へと運ぶ。
「お……」
またしても私はうめいた。そして押し出てくる言葉を飲み込んだ。
驚くほどにコクが深い。これは一体? 
「実は、このラーメンのスープには猪の骨を使っているんです」
私の表情を読んだのか店主が口を開いた。
「猪?」
「はい、猪です」
どうりであんな臭いを放っていた訳だ。しかし完成品であるこのラーメンからはあの獣臭が殆どしない、むしろ匂いたつのは魚介の香りなのだ。それも鰯や昆布といったベーシックな出汁ではない。
「もしかしてこれ、鮭節使ってる?」
「正解です」
なるほど猪骨に鮭節か。私はニヤリとした。
野趣あふれる二種の出汁を掛け合わせる事で互いの欠点を相殺し、長所を引き出す、そういう寸法か。店主のアイデアに感心した私は次に麺へと箸を伸ばした。
店主のラーメンの麺は亡父のラーメンよりも幅広でウェーブが全くかかっていない。深いコクと香りが売りと思われるこのスープでは、ウェーブによってスープを絡ませるとしつこさを感じさせてしまう。逆に、スープとの絡みが控えめな幅広麺を使う事で、客の舌の上で絶妙な味覚のアジャストが施される。
うむ、旨い。この父親にしてこの息子あり、といったところだ。軽く醤油で味付けされた煮豚は厚切りされており、重厚な猪骨鮭節スープとうまくバランスが取られている。そしてメンマの代わりに散らされた白髪ねぎは食べる者に一服の清涼をもたらす。
「……うん。凄く、うまかったよ」
丼の置く私の顔にはおそらく幸福という文字が浮かんで見えるだろう。
「ありがとうございます!」
今度はまごうことなき喜びが見て取れる。
「それで、その……」
「ああ。わかってるよ」
そう、私が味わった二杯のラーメン、どちらが旨いのかを今ここで、私が決めねばならない。一人の将来ある青年の人生を私が決めると言っていい。責任は重大だった。
「今日のまだ昼前だというのに私はラーメンを二杯も食べてしまった。食べられてしまった。これは二杯のラーメンともが旨かったという事になるが――」
青年店主は静かな瞳で聞いている。慎重に言葉を選びながら私は告げた。
「君のラーメンは、味わいの統一感という点で君のお父さんには一歩及ばない――」
青年の顔に失望の色が広がった。しかし私は「――だが」と続けた。
「だが私は、君の重厚なスープをお父さんのラーメンを丼一杯平らげた後でも美味しく飲むことができた。完食できた」
店主の顔が上がった。
「味の統一感ではお父さんに引けを取る、それは確かだ。だが、君の猪骨鮭節スープは本物だ。そして君の創意工夫とお父さんのスープを越えようとする情熱も」
「お客さん……」
「一年だ!」
私は人差し指を青年に突きつけた。
「一年後にもう一度、味比べを私にさせてくれ。それまで君はこの店で死に物狂いで修行するんだ、お父さん秘伝のスープに打ち勝つために」
「は、はい!」
青年の目に涙が滲んでいた。努力に実りを感じたのだろう。
「おいしいラーメンをありがとう」
私は釣りはいらないと二千円をカウンターに出すとサッシの引き戸を開けて店を後にした。

外はもう昼。太陽はすっかり雲に隠れて、少し雨が振っている。
良い事をすると気分がいいとは言うが、悪い事をしても気分はよくなるものだ。なんと言ってもあのラーメンがこんな近所で食べられるのだから。
「『君の創意工夫と情熱』……なんて」
思い出しただけで体がむずがゆくなってくる。よくもまあ、あんな見え透いた嘘で涙まで流したものだ。
――あの時、私の興味と食欲は既に彼の亡父のラーメンへと注がれていた。確かに息子である店主のラーメンもかなりのものだったが、私の趣味とは相反した。私は彼の父親の秘伝のスープを手軽に味わうために、最後のジャッジメントを敢えて曖昧なものにした。そして、失笑が洩れる程にたやすく事は成功した。
横断歩道を渡り、川沿いの道を歩く。心は喜びに湧き立ち、明日からの生活さえも明るく見えてくる。
「あのラーメンは本当に絶品だったからなァ」
想像するだけでうっとりとしてしまう。店に入った瞬間からトキメキを感じていたのだ、あの青年が骨を叩き割っている場面に出くわしてからだ。
「しかし……」
あの店主が最初に砕いていた骨、豚にしては奇妙だったな。上はつるりと丸くて、大きい穴がふたつ、すぐ下に小さい穴がふたつ空いていて、さらにその下には綺麗に整った歯がずらりと並んでて……。
ふと、私は立ち止まった。
「そんな……」
記憶を手繰り寄せる。そして私は愕然とした。
「……営業時間と休業日を聞き忘れた……」

<終>

はやくちちゃん

ぼくはアナウンサーがかっこいいと思うので、かっこいいアナウンサーになりたいです。
それでお母さんに、どうしたらアナウンサーになれるのかを聞いてみました。
すると、いっぱい勉強していい学校に行ってから、早口言葉を練習しなさいと言われました。
ぼくはいっぱい勉強することにしました。
でもいい学校に入るまで待ちきれないので、ちょっとずるいけど早口言葉を先に練習しました。
お母さんには内緒なので、となりの家に住んでるおじさんにいい早口言葉はないかを聞いてみました。
となりのおじさんはすぐに教えてくれました。
ぼくはさっそく練習してみました。


おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。
おみみおめめおむこ。


するとおじさんは大笑いながら、いいアナウンサーになれるようにがんばれ、と言ってくれました。
うれしかったです。


おしまい。



2012年2月10日金曜日

無計画書房 始動



こんにちは、山田です。

そんなこんなで、無計画書房というサイトを作りました。
「2月になったら正式に告知します」とか言いつつ、もう2月10日です。
そして今更告知すべきことも、特になかったりします。

執筆者登録いただいたみなさま、ありがとうございました。
その名のとおり、ゆるーく活動していきたいと思っています。
無計画な管理者ですが、よろしくおねがいいたします。



■無計画書房ってなに?

 無計画に活動します。創作系のテキストなどが集まるブログです。

■どんな作品が投稿されるの?

 小説、詩、日記、絵、告知、などなど。いろいろです。

■だれが書いてるの?

 今のところ、2011年12月に閉鎖された「超文系サイトテキスポ」
 から流れてきた作家さんたちが、主な執筆者です。

■執筆者として参加したいんだけど

 山田佳江のTwitterまでご連絡ください。     
 Twitterアカウント無いよ、という方は、ここのコメント欄にでも。

2012年2月6日月曜日

選んで決めよう名前未定サイト。

☆投票やら投稿企画やらを行いたい新サイトの名前、皆様ご提案ありがとうございました!
何にも来なかったらどうしようヒヤヒヤヒヤ、と内心穏やかじゃーなかったのですが、なんと豪華に多数決が開催できるまでになりましたー。ありがたやありがたや。

ご提案いただいた名前は、サイトのトップページなどにそのまま載ります。
また、アルファベット表記のものを、URLやTwitterアカウント名などに使わせていただくことになるかと思います(もっといい表記ができるよ! という場合は、コメント欄などでお知らせくださいませー)。

「バトれ場!」 → batoreba, battleba, batore_ba, battle_ba など
「花京院典籍」 → kakyoin_tenseki など
「てきすとぽい」 → textpoi, text_poi など
「テクストロワイヤル(テクロワ)」 → texroy, txtroy, textroyal, text_royal など
「エクリチュールファイト!(エクファイ)」 → ecfi, ecfight, ecriture_fight など
「文系男子と文芸少女 そこのあなた、小説バトルはお好き?(ぶんぶん)」
        → bunbun, bun_bun, bunkei_bungei など
「小説投稿サイト バトルリゾーマー(バトリゾ)」 → batrhizo, battle_rhizomer など
「ほしとれ」 → hoshitore, hoshi_tore など
「ぱふすたー」 → perfstar, perf_star, performance_star など

多数決は2/13 23:59締め切りです。皆様の清き一票を、ぜひ!
(投票欄、目立つところに設置してくださってありがとうございましたー。 > 管理人様)



皆様、ご協力本当にありがとうございました!
投票終了が少しずれましたが、大接戦の末、新サイトの名前はあやまり堂さん考案の「てきすとぽい」に決まりましたー。
(前日Google+ハングアウトでの話によれば、やはりテキスポの雰囲気をどことなく継承しているところが決め手だった様子…?)

票の内訳はこちら:
「バトれ場!」 シゾワンぷー  3 (27%)
「花京院典籍」 蟹川森子  0 (0%)
「てきすとぽい」 あやまり堂  4 (36%)
「テクストロワイヤル(略してテクロワ)」 ひやとい  1 (9%)
「エクリチュールファイト!(略してエクファイ)」 ひやとい  0 (0%)
「文系男子と文芸少女 小説バトルはお好き?(略してぶんぶん)」 ひやとい  1 (9%)
「小説投稿サイト バトルリゾーマー(略してバトリゾ)」 ひやとい  0 (0%)
「文系男子と文芸少女 そこのあなた、小説バトルはお好き?(略してぶんぶん)」 ひやとい  0 (0%)
「ほしとれ」 雨森  2 (18%)
「ぱふすたー」 雨森  0 (0%)
(総投票数11)

降竜注意報

渓谷から吹いてくる風の中にオゾンの匂いが混じり始めた。
 もうじき紫電竜の恋の季節が始まる。
 作物を育てることのできるわずかな土地にしがみついている人々にとっては、黒こげになった牝の紫電竜が畑に落ちてこないことを祈り続ける日々の始まりをも意味している。
 紫電竜は、繁殖力を強めた戦闘竜が野生化したものを祖先としているだけあって、毎年毎年発情期がやってくる。一年中発情している人間の側からいうのは少し奇妙な感じだが、まぁおさかんなことだ。
 巨人も森妖精も、祖竜も世界から去った。古の賢人達もまた空の向こうへと旅立っていったという。
 残されたのは獣たちと哀れなハダカザル、それから空飛ぶ巨大トカゲだ。
 今日もまた、降竜注意報が発令される。

【北九州短編集】 木屋瀬川合戦 (3/3)

【北九州短編集 参加作】

木屋瀬川合戦(その3・完結)

あやまり堂

 鮪の源太は、正月の大評定において、
「長男は色黒く、骨柄は肥えたりといえども、不器量なり。智慧はあっても人の嫌う黒智慧ばかり。
 下衆、下郎の類と交るなど行状も甚だ悪し」
 と決めつけられ、次男の鯛の源八に跡目をとられて意気消沈、
 それから回遊放浪の旅に出ていたのであるが、
 今日ただ今、一族の大事を聞いて駆けつけたのであった。

 源太は、時速百キロにも達するという鮪の遊泳速度で一気に網を突き破り、瀕死の仲間を解放すると、
「あきらめるな。こんなところで無駄死にしてどうする」
 と、大きな体を震わせて叱咤激励、戦局は一気に海側有利になったと見えた。

 と、ここで――。
 海・川両軍の争いを無益なものとして、和議を結ばせようと、
 はるばる尾張国より、尾張大根細長が、検視として筑紫へ下向してきたのである。
 供は大勢の八百屋物に、豆腐、菎蒻という威儀めかした一行。
「無益な戦いは止めよ」
 と一声仰せがあるや、たちまち松茸上人を初めとする近隣の名士豪族が恐懼し、
 両軍へただちに和睦を進言。
 川側はもとより少数のことで和議に異論はないし、海側でも鮪の源太が、
「平和こそ第一だ。こんなところで争えば付近の漁夫の利となるばかりで、
 我らには少しも得にならぬではないか」
 と、弟や鱸左衛門を叱り飛ばし、
 また大将である鯨入道も、細長卿や、同行の貴人・焼酎納言胸焼(むねやき)卿に逆らってまで
 この戦を続ける気は無かったため、結局、細長卿の提案を呑むことに決った。

 講和会議の席上、尾張細長卿は、
「料理は時節もあり、海川の魚関係なく楽しむべきもの。
 あらゆる海産物、野菜、酒、みな和合してこそ美味となる。
 食材どもが不和となれば、講座、婚礼、諸々の祭礼に客対応、
 あらゆる場面において差し支えが生ずるものだ。みな後々まで和合せよ」
 と、両軍の大将に諭したことで、この、何とも馬鹿らしい木屋瀬川合戦は終結するのだった。

 ――以上が、木屋瀬川合戦のあらましであるが、
「逆鱗余聞」では、駆け落ちした鮎姫と鰻之介のその後が語られていない。
 だが在郷の稗史、伝承のたぐいと、「逆鱗余聞」の断片をあわせて語れば、
 二人のその後は、だいたい以下のとおりになる。

 八月末に、木屋瀬川の城を抜け出た二人は、そのまま川をさかのぼり、
 懸命になって、花の滝、鮎返しの滝と呼ばれる難所を越えて、
 九月初旬、八木山中にある古刹、名正寺へ入った。
 ここの住職、松茸上人と鮎姫は旧知の間柄であり、二人はこの地でしばらく、下界の騒擾とも無縁の、
 幸せな日々を送ることができたようである。
 が、城中での贅沢に慣れた身に、寂しい山奥の暮しは耐え難く、
 とりわけ女漁りを趣味としていた鰻之介にとって、鮎姫一人を愛して月日を送るなど、
 とうてい出来る相談ではなかった。

 次第に疎遠になる間柄。

 やがて尾張細長卿の九州上陸にあわせ、松茸上人が山を下りるというまさにその日、
 鰻之介は書き置きさえ残さず、するりと寺から逃走してしまった。
 百年の恋も、冷めればむなしい過去だけが残る。
 鮎姫は男の薄情を恨んだものの、自分も、以前の燃え上がるような恋心を持たないことを悟って、
 追いかけることもせず、そのまま迎えが来るまで、ぼんやりと、寺の一室で昼夜を過していたという。
 その後、鮎姫が誰のもとへ嫁いだのか、定かでない。

 一方、平戸沖では、鮪の源八が、鯨入道の跡目相続人と定められた。
 また、今回の不始末の責めを負い、鱸左衛門の追放が決ったが、
 騒動の道化となった鯛の源八が取りなして、執権職の剥奪だけで済まされた。

 その後――。
 いくらもしないうちに、権力を失墜させた鱸左衛門の屋敷に、
 にょろりとして細長い、例の鰻之介によく似た新参者が仕えるようになった。
 だが当人に聞けば、
「それがしは、穴子之介と申します」
 とのことであった。





(了)

2012年2月3日金曜日

テキスポ作家陣イメージファイル

ただしジュニーさんが設定を細かく考えるため、絵だけ。



↑山田さん画



あとはジュニーさん相関図だけ。ジュニーさん頼んだ!!

恥ずかしいテキスポバトルの朗読内容

恥ずかしい三種類

厨二病編 (心をこめて今から全身全霊の技を放つかのように。技ですっごい恥を捨てて叫ぶ) 
ふっ…貴様らに最初に告げよう。恥辱と絶望を味わうがいい…、心してタナトスの声を聞け。大いなる海よ、母なる大地よ、復讐たる暗黒の炎よ、全てを無に帰し(きし)、我の声に応じよ…!!さあ我が前に出でよ、全てを漆黒の絶望に覆うもの者、「アヴソリュート・ドラゴス・エターナル」!!(このあと高笑いでもしてください)」 

香吾悠理コメント・ 技の効果・龍の王を召喚して大地を永遠に闇に包みこみ、初めてテキスポクラスタの敗北の味を知りながら、唱えた人(と考えた本人)は恥ずかしさのあまり死ぬ。 
エターナルフォースブリザード以上の厨二病技が思いつきませんでした。
山田暗黒氷竜王が最初思い出した中二病名でしたが、恥ずかしい技名って漢字使いまくりが多いので、大変です。 そういえば田中ドッペルハリケーンっていうのもあったね。  


BL・言葉攻編 (すっごい嫌みとドSを交えて。このメンツならこの台詞くらい楽勝で言えるでしょう)


番外 (必死に悪者を演じてください)
ぴぎゃっ!うぎゃぴぃー!!あじゃぱあーッ!P!!P!!テキスポクラスタでこんなことを言わされるとは、俺はマンモスあわれな奴!!い、嫌だあーっ、テキスポクラスタに負けるなんて嫌だあーっ!!助けてくれぇえええ!!またこんな朗読させられるなんて嫌だあーっ!!!」 

香吾悠理コメント・ 蟹座の迷言を入れてみた。 というか負けた人で誰のだろうと、恥ずかしいものを朗読させられた人は、マンモス憐れな奴。 

「厨二病 技名」タグと、「google翻訳」を使って必死に考えている自分がいた。 中学二年生を公の場で考えるのは結構大変だということがわかりました。

第1回 恥ずかしいテキストバトル 作品募集

先日開催された、「テキスポクラスタのだめなほう」枚数バトルの、
罰ゲームとして朗読するためのテキストを募集しますよ。
声に出すのが恥ずかしくなるような文章を、投稿してくださいです。



応募資格


無計画書房に投稿できる人。


募集内容

「朗読するとすごく恥ずかしい文章」を募集します。
小説、詩、などジャンルは問いません。
文章の長さに規定はありませんが、あんまり長いと朗読する人がしんどいです。


投稿方法

無計画書房に、作品を新規投稿して下さい。
「恥ずかしいテキストバトル」のラベルをつけてもらえると、
あとで発見しやすいかもです。


募集期間

2012年2月3日(金) ~ 2012年2月10日(金)


投票期間

2012年2月11日(土) ~ 2012年2月15日(水)
(無計画書房の投票機能を使って、一番票が多かった作品が優勝です)


結果発表

2012年2月16日(木)


朗読について

「テキスポクラスタのイケメンボイス」雨森さんと、
「テキスポクラスタのダンディボイス」シゾワンぷーさんが、
優勝作品を、ツイキャスで朗読します。

ツイキャス朗読の開催は、2012年2月17日、18日、19日あたりを予定しています。
詳細な日程が決まり次第、告知します。

2012年2月2日木曜日

れつだん先生「ロンリー・グレープフルーツ」感想Skype

こんにちは、山田です。
れつだん先生とSkypeで会話した時のログを貼っておきますよ。
読みにくいですが、めんどうなのでそのままコピペです。




[16:58:10] yo4e: こんにちは。ロンリーグレープフルーツ面白かったですよ。全体的に読みやすかったです。
[16:58:54] yo4e: もうほぼ完成ということなので、個人的な感想として書いておきますね。参考にはならないかも知れませんが。

[16:59:15] れつだん先生@同人誌製作中: お願いします!

[16:59:42] yo4e: 彼女と最初に出会ってから、結ばれるまでの描写が、さくっと行ってしまったので「あれー?」って思っちゃいました。あそこもっと読みたかったw
[17:01:37] yo4e: あと、最後の方の別の女の子との話は、もう少しあっさりいってもよかったかなあ。複数の物語がくっついちゃってるみたいになりますよね。
[17:01:55] yo4e: あそこはあそこで、また別の物語として書いてもいいのかも。
[17:03:03] yo4e: そこを減らした分、最後のODからの描写をもっと密度上げて読みたいなあ、って感じです。あのへんはクライマックスで迫力があるから。
[17:03:11] yo4e: しっかり読みたいな。

[17:03:52] れつだん先生@同人誌製作中: なるほど、確かに別の女の話はわけたほうがいいかもしれませんね、あれだけでそこそこの枚数書けそうだし。ODはほとんど覚えてないんですよねww
[17:04:13] れつだん先生@同人誌製作中: でもクライマックスなんで盛り上げたほうがいいかもしれません。

[17:04:51] yo4e: 完全にはずさなくていいと思うんだけど、エピソードとして、さらっと入れるくらいでもいいのかなあ、と。OD以後の話はもっと読みたいですねw 捏造でもいいんでw

[17:05:29] れつだん先生@同人誌製作中: 私小説なんでどこまで脚色するかは悩んだんですよねぇ。一応女二人出して対比させようとか考えたんですが、難しかったです。

[17:06:32] yo4e: 私小説としては、客観視されていて読みやすいのですが、感情がさらっといってしまっている気もするので、最後くらいは、「もうどうしようもない感」を盛り上げてもいいのかなあ。全体的にクールですよね。主人公。

[17:07:09] れつだん先生@同人誌製作中: そうですね、第三者的目線で見ようと思いました。あまり入り込み過ぎるとマズいかな、と。

[17:08:17] yo4e: いやあ、もっと入っちゃってもいいんじゃないですか。全部書きなおすの大変だから、最後くらいは入り込んじゃって、迫力ある感じで。
[17:09:14] yo4e: 最後の一文は希望を感じさせるので、そこに至るまでの、「生きててもしょうがない感」をもっと内面から読みたい。

[17:09:34] れつだん先生@同人誌製作中: なるほどなるほど、確かにそういう感じはもっと出してもよさそうですね。

[17:10:14] yo4e: あとは、さっきも書いたけど、彼女と最初に結ばれる時の、ドキドキ感とか緊張感とか、あそこなんであんな飛ばしちゃったんです?
[17:10:21] yo4e: もっと、ねちこく書いて欲しかったw
[17:10:49] yo4e: あそこ大事!
[17:10:50] yo4e: 個人的にはw

[17:10:57] れつだん先生@同人誌製作中: 基本的に主人公は何もせずに周りが動いていく、っていうのがメインで考えてたので、セックスのところもあっさり行こうと考えてました。
[17:11:18] れつだん先生@同人誌製作中: そういうこともあるよね、ふーん、みたいな

[17:11:43] yo4e: なるほどー、じゃあ彼女がどう振舞ったのかとか、主人公がどう流されちゃったのかとか、もう少し描写してもいいのかなあ。
[17:11:58] yo4e: アドバイスというよりは、単純に私が読みたいだけなんですけどねw
[17:12:28] yo4e: セックスそのものというよりは、最初のセックスにいたるまでの緊張感と興奮を!
[17:12:30] yo4e: とかねw

[17:12:36] れつだん先生@同人誌製作中: なるほどww確かにあそこはいくつかエピソードがあるので、それを入れようかな

[17:12:44] yo4e: わー、入れて入れて!!

[17:12:48] れつだん先生@同人誌製作中: 人んちでセックスしたので、その時にアクシデントがありまして。

[17:12:54] yo4e: (入れて入れてってどうなのw)

[17:12:59] れつだん先生@同人誌製作中: www

[17:13:17] yo4e: おお、なんでそこ除外しちゃうんですか。
[17:13:29] yo4e: そういうの書かなきゃでしょ。

[17:13:32] れつだん先生@同人誌製作中: めんどくさかったww

[17:14:09] yo4e: 全部書き直すのは相当めんどくさいから、ところどころに濃いエピソード挿入したらどうですか?

[17:14:24] れつだん先生@同人誌製作中: そうですね、もうちょっと濃くしていこうかな。

[17:14:25] yo4e: で、別の女の子のエピソードは、もうちっとさらっと。

[17:14:38] れつだん先生@同人誌製作中: そうですね、そこはさらっとでいきますか。

[17:15:03] yo4e: うん、空気変わっちゃうといけないから、前半部分は、客観視した書き方のままで、濃い話を足して、
[17:15:21] yo4e: で、最後のODから、がーっと内面入っていく感じで、
[17:15:50] yo4e: ラスト、かすかな希望を感じさせる、今の終わり方が引き立つように。

[17:15:55] れつだん先生@同人誌製作中: なるほど難しいですなぁ。

[17:16:48] yo4e: いやあ、基本、今のままでいいと思いますよ。読みやすいし。ちょこちょこ挿入する程度でダイジョブ。三月末まで余裕ですよ。

[17:17:21] れつだん先生@同人誌製作中: そうですね、時間はまだあるんで、手直ししつつ濃くしていきましょう。群像とすばるどっちがいいかなあ。

[17:17:42] yo4e: んー、難しいなあー。すばるかなあ、どうだろう。
[17:17:55] yo4e: ひやといさんとか読んでもらったんですか?

[17:17:55] れつだん先生@同人誌製作中: そこを滅茶苦茶悩んでるんですよね。

[17:18:54] yo4e: そういえば、群像は随分先でしょ? すばるでいいんじゃない? 3月末だし。群像は、もう一人の女の子のエピソードを書いちゃえばいいじゃん。

[17:19:16] れつだん先生@同人誌製作中: なるほどそのパターンもありますね。

[17:19:50] yo4e: うん、でも私あんまり文芸誌の傾向とか詳しくないので、詳しい人にも相談してみて下さい。私なら直近のすばるに出すかなー。

[17:20:12] れつだん先生@同人誌製作中: でも別に百枚の青春小説もあるんですよねぇ。これもどこに出せばええかわからんという。
[17:20:17] れつだん先生@同人誌製作中: よし、すばるでいきましょう。

[17:20:22] yo4e: うんうん。
[17:21:02] yo4e: まあ、あくまでアドバイスというよりは、「私がもっと読みたかったところ」を極めて個人的に報告しただけなので、あんまり参考にしないで下さいw
[17:21:09] yo4e: 好きなように書いたらいいさー。

[17:21:49] れつだん先生@同人誌製作中: いやいや、参考になりましたよ! ありがとうございます。

[17:21:52] yo4e: これ、無計画書房に貼っちゃってもいいですかね? あやまり堂さんが(ちっ。感想見たかった。。。)とか言ってたのでw

[17:22:01] れつだん先生@同人誌製作中: 全然構いませんよ。

[17:22:30] yo4e: じゃあ、貼っときますね。色々言っちゃってすみません。完成したらまた読ませてね^^

[17:22:39] れつだん先生@同人誌製作中: 了解です!

[17:22:56] yo4e: ではではー、頑張って下さい。

[17:23:05] れつだん先生@同人誌製作中: はいな。

【北九州短編集】 木屋瀬川合戦 (2/3)

【北九州短編集 参加作】

木屋瀬川合戦(その2)

あやまり堂


 鮎姫の書き置きにびっくりしたのは、鯉の将軍と、妻の鮒夫人である。
 だが、初めこそ浅はかな娘よ、裏切り者の鰻よと激しく憎んだものの、
「もとはと言えば、姫の気持も聞かず、海の者と無理に結婚させようとしたわしらが悪いのだ」
 と親の情を起こし、とにかく今は娘の将来を憂うだけとなって、
 やがて結納の打ち合せに再訪した鱸左衛門に対し、
「支障が出来たゆえ、この話は無かったことに」
 と通告してしまった。

 これでは鱸左衛門、おさまるわけもなく、
「何で今さらそのようなことを。すでに決めたことなれば、
 何としても姫をお連れし、祝言を上げていただきますぞ」
 と激しく憤り、川魚の分際で生意気な、と言わなくても良いことまで口にしたため、
「平鱸めが、我らが将軍の仰せに逆らうか」
 と、血気盛んな海老の長髭、がざみの次郎といった若い連中の怒りを買ってしまった。

「海魚がどれほど偉いのだ」
 と長髭、次郎は怒りにまかせて鱸左衛門に飛びかかるや、これを押さえつけ、
 殴る、蹴ると、さんざん辱めてやった後、強引に追い返したのである。

 こうなると、あとは意地尽くである。

 平戸沖へ逃げ帰った鱸左衛門は、自分の責任になってはたまらないから、
 破談にした鯉の将軍たちを激しく罵倒、悪口雑言、徹底的に誹謗した。
 これを聞くや、面目を失った花婿・鯛の源八などは真っ赤になって怒り、
「おのれ憎き川魚ども。この上は一戦に及んで奴らを打ち破り、鮎姫を奪い取って、
 残った川魚どもは皆殺しにしてくれる」
 と、各地に兵を催促すれば、鱶(ふか)の大口肝太(きもふと)を筆頭に、
 鉄砲の筒先を揃えた毒ふぐ太郎や、鰤の一党、土佐沖からは鰹の一団が集まり、
 さらには鮟鱇、かます、手長蛸、なまこに海月、伊勢海老などという連中まで大挙して着到。
 総勢百万余騎の大軍で、木屋瀬川の河口をふさいだ――と「逆鱗余聞」に書いてある。

 一方の川魚側も、攻められれば応戦するまでと、
 鯰の五郎を将監に、鰌(どじょう)鈍八、津蟹の次郎、海老の長髭、
 亀、獺(かわうそ)、すっぽんなど、あらゆる川の仲間を集めて気勢を上げたが、
 総数はわずかに三百余騎。
 援軍をあわせても、海の大軍と比べればあまりにも心細い軍勢であった。


 こうして、木屋瀬川合戦が始まる。
 合戦が始まったのは、「逆鱗余聞」によれば九月十六日のことである。

 海勢、真っ先に木屋瀬川へ入ったのは、一番手の大将・鱶の大口肝太で、
「平戸沖に隠れもなき勇士、鱶の大口肝太とは我がことなり。
 鯉将軍の身内に、目白、口広、髭長、まだら、ぬらくら鯰とか申す者があると承る。
 いざ見参、見参」
 と、大音声を上げれば、鯰の五郎、水面へ飛び上がって、
「大音上げて呼ばわることこそ運の尽き。それ、あそこの腐れ鱶を、すり身の蒲鉾にして食ってやれ」
「よし来た」
 と、獺兄弟が躍りかかって鱶の横腹へ食いつくので、
「やや。一同、肝太を討たすな。かかれ、かかれ」
 と、慌てて毒ふぐ太郎旗下の鉄砲隊が攻めかかる。

 ここで、
「今だ」
 とばかりに川縁に展開していた川魚方の援軍、井口茸人(たけひと)が号令、
 きのこ軍が総力で、そうれ、そうれ、と川底へ沈めていた網を引き上げたから、
 あっという間に、海魚は一網打尽にされてしまった。
 口呼吸も出来ぬ彼らは、ぱくぱくと、声も発し得ず目を白黒させるばかり。

「勝ったぞ」
「今だ、皆殺しにしろ」
 と川魚党が攻めかかろうとする、その時だった。
「待て、者ども」
 と、沖合から一直線に遡上してきたのは、鮪の源太すなわち、
 家督を弟に奪われた鯨入道の長男坊であった。


(つづく)


2012年2月1日水曜日

「テキスポクラスタのだめなほう」 枚数バトル  結果発表

「1月末の公募にどうやら間に合いそうもない、
「テキスポクラスタのだめなほう」と呼ばれる人たちが、
1月末までに何枚書き上がるか競いました。

400字換算で、枚数が一番少なかった人は罰ゲームというお約束でした。



■結果発表

1月31日(火) 23時59分時点「自己申告」で、

 1位 シゾワンぷー 83.2枚
 2位 山田佳江 80枚と4行
 3位 雨森 79枚と19行

となりました。ただし……。



疑惑のツイートが。

sizowan シゾワン
@yo4e @t_amamori ワタクシ、いま戦慄してるんですよ。 テキストファイルに直して400genに突っ込んでみたら69枚しかいかないのです! でも640字詰めで52枚行ってるしなー。 ま、いいか。

yo4e 山田佳江
@sizowan ぷーさん……、オープンオフィスの400字詰に入れてみても、69枚と19行しかないんだけど。これって……。(私80枚と4行、雨森っち79枚と19行、ともにオープンオフィス換算)

t_amamori 雨森
@yo4e @sizowan O'sの400字原稿用紙にコピペしたけど68枚だったよw



そんなこんなで、当初は「自己申告」という予定だったのですが……。

t_amamori 雨森
@sizowan ここで自分が逆転して勝利宣言しちゃうのも興を削ぎそうだし、バランスをとって二人でドベというのが落としどころだと思いますよ?w

sizowan シゾワン
@t_amamori えー、アマモリさんも一緒にやってくれるならやるー。 えーん、えーん><



ということで、シゾワンぷーさん、雨森さんの、ダブル罰ゲームが決定いたしました!

つきましては、罰ゲーム「恥ずかしいテキストをツイキャスで朗読」のために、「恥ずかしいテキストバトル」を開催いたします。詳細は次の記事にて、お知らせいたします。

【北九州短編集】 木屋瀬川合戦 (1/3)

【北九州短編集 参加作】

木屋瀬川合戦

あやまり堂


 北九州市域の西端に、遠賀川という川がある。
 九州で唯一、鮭が遡上する一級河川であって、
 古くは筑豊の炭鉱から大量の石炭を運ぶ重要な川であった。
 ほとりに成立した宿場名により、木屋瀬(こやのせ)川ともいう。
 木屋瀬の宿は、現在でこそ北九州市外れの、さびれた古い町に過ぎないが、
 近代までは、遠賀川の水路と、長崎、赤間両街道の要衝として、たいへんに賑わっていた。

 木屋瀬川に、ひとつの奇譚がある。
 明治時代、村上昇平という人物によって書かれた「逆鱗余聞」という小説である。
 この小説によれば、百万匹を超える海の魚と川の魚とが、この木屋瀬川において、
 激しくもむなしい戦争に及んだというのである。

 ことの起りは、ある婚礼話であった。
 肥前の国、平戸沖に住む鯨入道味善(あじよし)は、西海の覇者として長く周辺海洋に君臨していたが、
 寄る年波に危機感を覚えてある年の正月、衆望のある次男、鯛の源八郎味高(あじたか)に嫁をとり、
 跡目を相続させる旨、一同に披露した。
 むろん、西海の覇者の子息の婚礼であるから、政略結婚である。

「どこかに息子の嫁にふさわしい娘はおらぬものか」
 と尋ねる鯨入道に、入道家の執権、鱸(すずき)左衛門成善(なりよし)が進み出て、

「以前それがしが木屋瀬川を遡り、鞍手郡の寺院に参詣した折、たいへん麗しい姫君を拝見しました。
 御名を尋ねれば、木屋瀬川の将軍、鯉の鰭高(ひれたか)公のご息女、鮎姫さまとのこと。
 御身内である海魚の中よりご子息の嫁御を取れば、
 外戚だ、一族の専横だのと、要らぬ紛擾が出来るは必定。
 ここは大殿の勢力拡大のためにも、新たに、川の者と手を結ばれるが最善と存じます」

 と、要するに執権たる鱸家に強敵をつくらぬための献策を行って、
 認められるや勇躍して木屋瀬川を遡上、鯉の将軍家へ婚礼について談じ込めば、
「小川育ちの姫魚が、千尋の海の妻女となるか。たいそうな出世だ」
 と、将軍もこの政略結婚を喜んで、嫁入り道具の手配に饗応の支度と、話はとんとん拍子に進んだ。

 ところが、当の鮎姫は承知しない。
「なぜ私が、そんな身も知らぬ者のところへ、まして海などへ嫁に参らねばならないのですか」
 と、側近の鰻之介に不満を漏らせば、鰻之介にもひそかな思慕の心があったから、
 姫様を必死に掻き口説いて、
「ともに逃れ出ましょう」
「まことですか。実は、私も以前からおまえのことが」
 と、語り合った鮎姫と鰻之介は、ある夜ひそかに駆け落ちしてしまった。


(つづく)