2012年3月25日日曜日




アイコン用画像 256x256
下唇あり・なし の2バージョン

2012年3月21日水曜日

卒業 - Our journey has just begun.


 だいたい、卒業式に桜なんてできすぎている。桜の開花予想は毎年3月の終わり頃だし、春一番という名のアニメ版ジャイアンみたいな風が吹くか吹かないか悩んでいるあたりに、たいてい卒業式ってのはとり行われる。誰が卒業≒桜ってイメージを植え付けたんだ?
 ほとんどの卒業生はたいして深い感動などなくこの学校を出ていくわけで、長野県民以外は校歌なんてものの1週間もすれば忘れてしまう(秘密のケンミンSHOW情報だが、長野県民は大人になっても卒業した学校の校歌を覚えているそうである)。大学に行けば夏はテニス、冬はスノボみたいなフヌケたサークルに入って頭の中をフニャフニャにされ、女ばかり追いかけてユニクロからH&Mにクラスチェンジしたりして、2、3年後には、「ああ、就活めんどくせえ」とか言ってるに決まってるんだ。着る洋服をユニクロからH&Mにすることがクラスチェンジかどうかなんて知らないけど。
「はあ」
 僕はせいぜい小学生が掘る落とし穴程度には深いため息をついた。
「晴れの卒業の日になにため息なんてついてるのよ」
 声をかけられて立ち止まり、振り向くと、そこには茜がいた。
「おまえかよ」
「なによ、その顔」
「生まれつきこの顔なんだが」
 茜に悪態をつくのも今日が最後か。そう思うと少し寂しい気もする。
 茜とは3年間同じクラスだった。1年のときにとなりの席だったことをきっかけに何となく話すようになって、気がつくと顔を合わせれば悪態をつきあうほどの仲になっていた。たぶんいい意味で。この学校に入って男友達も女友達も何人かできたが、その女友達の中で最も仲のいい友だちとでも言っておけば、まあ、角も立たないだろうか。
「生まれたときは今よりずっと可愛かったわよ。知ってる? 赤ちゃんって可愛いのよ。ちっちゃくて、やわっこくて、しわしわで、ふにゃふにゃで、ぽにょぽにょなのよ」
「知らない」
 そう言って、僕は歩き出した。
「ちょっと、どこ行くのよ」
 茜が駆け足で追いかけてくる。

「フッ、どこだっていいじゃねえか。俺たちの旅はまだ始まったばかりだぜ!」


                                                    ...The END



今まで応援ありがとうございました! 冬雨先生の次回作にご期待ください!



敵キャラクターなので、色がおかしい方が良かったのですが、このままだと背景と混ざるかも。
夜背景。
しぞワン+茶屋さんを敵キャラにしたので、あとは…どうしようか。

今の所の確定したもの
茶屋さん+しぞワンさん(ゾンビ系萌えキャラ男の娘
UCOさん(無害な汎用型物理不可キャラ
たきてあまひかさん(全裸短時間で出現、倒すと雨がなくなる
雨森さん(パターン数の多い中ボス的狼男

まともなのは雨森さん…か
一番ひどいのはたきてさんだよなあ…

2012年3月18日日曜日

無計画リレー小説 第六話

【登場人物】
古屋勇太‥‥十九歳。小説家志望のフリーター。祖父の営む古書店でアルバイト中。
美園さおり‥‥十七歳。高校生。勇太の幼馴染で、美園屋青果店の一人娘。
古屋繁‥‥勇太の祖父。古書店を営んでいる。
古屋一雄‥‥勇太の父。
ジェイムズ・J・ジェイムズ‥‥伝説の作家。


 じゅうじゅう。ぷうぷう。
 秋になると勇太の母親がよく買ってきては焼いてくれた、さんま。古書が脂臭くなるといけないから、と、七輪をわざわざ狭い裏庭の隅の方へ持っていって。そうして焼いたばかりのを、勇太たちに食べさせてくれたっけ。あの、少し焦げた皮がまだちりちりと騒いでいるところへ、きゅっとすだちを搾って――。

 だけど、空から降ってきたそれはそんなもんじゃなかった。
 天一面を覆うかと思うような、巨大な影が、鼓膜を突き破るほどの激しい焼き音を、鼻をつまみたくなるほどの強烈な焦げ臭をさせながら……。
「何してるの勇太、よけるわよ!」
 さおりに半ば引きずられるようにして、勇太は大根おろしでできた山の陰にしゃがみ込んだ。途端、ずどおおおおおん、という世界全体が揺れるような轟音と共に、巨大さんまがさっきまで勇太たちのいた場所へ着地する。足元を支えていた硬質な何かが、ビリビリと震えた。よくよく確かめればそれは陶器でできているようで、恐らくは非常に大きな、皿なのだった。
「じいちゃんすげえ。本当にさんまが降ってくるなんて」
「今頃何を言っておるか。来る、と『言った』ら、来るに決まってるだろうが」
「えっそれ、どういう……」
 繁の言葉には、妙なアクセントが感じられた。勇太がその意味をとりかねていると、繁は呆れたように肩をすくめる。
「やれやれ、お前は一雄の時よりも手がかかるな」
 一雄(かずお)とは、勇太の父親の名前だった。彼もまた、古屋の成人の儀を受けてこの場所へ来た、ということだろうか?
 さんまは鋭角に尖った口をこちらへ向けて、湯気を昇らせ身や皮を派手に弾けさせながら、熱い脂を滴らせている。その口は半開きで、縁を鋭い歯がびっしりと覆い、まるで勇太たちを脅しているかのようだ。その斜め上にあるだろう眼球に至っては、もはや大きさを想像するのさえ恐ろしい。
 あの巨人はどうなったろう、と勇太がわずかに首を伸ばして大根おろしの向こうをうかがおうとすると、たちまちさおりに咎められた。
「まだよ、勇太。もう少しだけじっとしてて」
「あ、うん。……あのさ。さおりは何でそんなにいろんなこと」
「おい、お前たち早くこれを被れ」
 繁が広げ始めたのは急な雨の日に軒先の古本に掛ける、透明なビニールシートだった。訳の分からないまま、言われた通りに三人してシートの下へと潜る。巨大さんまはまだ盛大にジュウジュウと音を立てていたが、そのところどころに巨人の野太いうなり声が混ざっているように勇太には思われた。
(こんな透明なシートでは、身を隠すこともできないんじゃ……)
 勇太が不安になった瞬間。バラバラバラッ、と天から大粒の雨だれが降り注ぎ、同時に柑橘の心地好い香りがあたりに満ち満ちる。
(――これは、すだち?)
 恐ろしい悲鳴が聞こえた。
 思わず顔を上げると、巨人がすだちの雨の直撃を受け全身を濡れそぼたせながらのたうっている。剛毛に覆われた腕で何度も目のあたりをこすり、あれほど硬そうだった皮膚も酸にやられたか、焼けただれ幾筋もの血を流していた。
「さ、勇太、さおりちゃん。行くぞ」
「行くって、どこへ?」
 勇太の間の抜けた質問に、二人が振り返った。「いやあね、勇太。まだ分からないの? 大根おろしに焼きたてのさんま、すだちがかかったといえば、次は」
「……食べる?」
「そう! 正解。箸が、私たちをここから出してくれるの」
 そう言っている間にも、尖った二本の柱が突き刺すような角度でさんまに迫ってくる。
「さあ、急いであれにつかまるんだ! チャンスは二度はないぞ」
 言うや否や、繁が還暦過ぎとは思えない身軽さでさんまの腹ビレをつかみ、焼き目を足がかりに急勾配をよじ登り始める。さおりも即座に後に続いた。
「だけど、箸――ってことはさ、出口はまさか、『口』?」
 巨大さんまの口でもあの迫力だったのだ、それを食らう超巨人の口はどんなにか、大きく、力強く、おぞましいほどの咀嚼力で勇太たちを噛み砕くことだろう。
「大丈夫、私たちそこから来たんだから!」
 きびきびと銀茶まだらの壁を登ってゆくさおりの動きに、ためらいや迷いはない。見れば、いつもの美園屋青果店の前掛けの下は、まだ高校の制服のままだった。ミニスカートの下の引き締まった太腿に目が行きそうになって、慌てて顔を背ける。
(こんな時に俺は)
 ――と、目の端に恐ろしいものが映った。巨人が、ただれた腕を、脚を引きずり、剛毛を血でべったりと体に貼りつかせながら、それでも確実に、こちらへ這い寄ってくる。両の目はもう完全にその役を果たしていないようで、けれど巨人にはどうしてか分かるようなのだ。勇太たちの、いや、恐らくは勇太の、居場所が。
「ほら、勇太も早く!」
 さおりの声に引っ張られるように、勇太も登った。べたつく脂に何度も手を滑らせながら、懸命に登った。これ以上さおりや繁の足を引っ張るわけにはいかない。二人を、自分のせいで危険にさらすわけにはいかない。今度こそ、自分で何とかしなくては。
「箸が来るぞう」
「さおり! 俺につかまって!」
 焦げた皮の隙間に足を取られていたさおりの腕を、勇太は無我夢中でつかんだ。そうして三人、巨大な箸と塩焼きさんまの塊につかまって、ぐいっと急加速で宙に浮かび上がった!

(……つづく)

くらげ娘



方向を間違えているのは分かっています。
そして締め切りをすぎているのも・・・orz

・・・でもせっかく描いたので見て!( ・∀・)

2012年3月14日水曜日

アイコン、あいこん、icon

<2012.03.14>
新サイト「てきすとぽい」のアイコン募集に、たくさんのご提案ありがとうございました!
誠に勝手ながら、投票用になんとなーくデザインを思い出せそうな名前をつけさせていただきました……(センスのなさは不問でお願いします)。

・蟹川森子さんデザイン:紋章学(テキスポたん)
・蟹川森子さんデザイン:紋章学(本)
・茶屋休石さんデザイン:読書
・太友豪さんデザイン:ぞうさん
・山田佳江さんデザイン:「て」きすとぽい
・たきてあまひかさんデザイン:落款
・たきてあまひかさんデザイン:て斬すとぽい1
・たきてあまひかさんデザイン:て斬すとぽい2
・たきてあまひかさんデザイン:「てき」すとぽい
・たきてあまひかさんデザイン:「ぽい」
・たきてあまひかさんデザイン:うちゅうじん
・蟹川森子さんデザイン:「T」
・takadanobuyukiさんデザイン:くらげ娘 (投票欄開設後にご提案いただきました。)

※こちらに掲載の画像は、投票のためトリミングやサイズ調整を行っております。ご応募いただいた全画像は前回の記事の末尾に掲載させていただきました。

投票は一週間程度を予定しています(3/21か、22くらいまで?)。
恐れ入りますが、正確な投票終了時間は投票欄でご確認くださいませー。

……さてさて、一体どれに決まるやら!?



<2012.03.24>
皆さま、ご投票まことにありがとうございました!
結果このようになりましたー。

蟹川森子さんデザイン:紋章学(テキスポたん)  4票
蟹川森子さんデザイン:紋章学(本)       2票
茶屋休石さんデザイン:読書           1票
太友豪さんデザイン:ぞうさん          1票
山田佳江さんデザイン:「て」きすとぽい     2票
たきてあまひかさんデザイン:落款        1票
たきてあまひかさんデザイン:て斬すとぽい1   1票
たきてあまひかさんデザイン:て斬すとぽい2   0票
たきてあまひかさんデザイン:「てき」すとぽい  0票
たきてあまひかさんデザイン:「ぽい」      0票
たきてあまひかさんデザイン:うちゅうじん    1票
蟹川森子さんデザイン:「T」          3票
(総投票数16)

というわけで、制作中サイト「てきすとぽい」のアイコンには、蟹川森子さんデザインのこのアイコンを使用させていただきたいと思います! ぱちぱちぱち!
……と、いきたいところなのですが、「テキスポたん」デザインの権利をお持ちのはずの深水さんと、まだ連絡がついておりません。残念ですが、しばらくの間は「テキスポたん」部分が本になったこちらのデザインを使用させていただきつつ、深水さんのお返事を待つ……ということにさせていただきたいと考えております。
(深水さんからお断りの通知をいただいてしまったり、あまりに長い間お返事をいただけない場合は、その時にはまた改めて相談させてくださいませ。)

また、これだけ様々な、どれも可愛らしいデザインのアイコンたちを、このまま使わないのはもったいない! と、投票始まってから思いたってしまいまして、できれば Twitterアイコンを月替わりなどにして、順に使わせていただきたいなあと考えておりますのですが、各デザインのご提供者さま、いかがでしょうか……?

Twitterアイコンにつきましては、
引き続きデザインのご提案をお待ちしております!
ご提案の際には、以下のファイル形式でお送りいただけると大変助かります。
サイズ:128 × 128 pixel 384 × 384 pixel
拡張子:.bmp/.png/.gif/.jpeg/.jpg
※季節感のあるデザインをご提案いただいた場合には、使用順を変更することがあります。



<2012.05.22>
Twitterのアイコン縮小のクセを、少しいろいろ試してみました。の報告。
(4月20日頃試しました、レポ遅くなってごめんなさい……。)

Twitterのプロフィール欄に表示されるアイコンは、4/20時点では128×128px、タイムラインに表示されるアイコンは48×48pxです。
(他に、場所によって24×24pxなども使用されていますが、よく目にするのは前述の二つかなと思います。)
ところがユーザがTwitterに登録できる画像は一枚しかなくて、その一枚を元に、Twitter側がそれぞれ適切なサイズに拡大縮小して、アイコン表示をしている状態です。

……で、そのTwitterアイコンの、拡大縮小の癖なのですが。
あれこれ説明するよりも、スクリーンショットを見ていただくのが早いかなと思います。
登録した画像はどれも、384×384px(※128と48の最小公倍数)だったかなと思います(すみません、いろいろなパターンで試していたので記憶があやふや。でもどのサイズで試したときも、縮小画像の傾向は同じでした)

一番上が、透過色を使わないPNG画像。背景色は元々白です。
真ん中が、輪郭の外を透明に設定したPNG画像。
一番下が、輪郭の外を透明に設定したGIF画像。

GIFの透明度は、完全に透明か完全に不透明かの二値しかないため、一番下が輪郭ギザギザになるのは、まあしょうがない、のかなと思います。
ですが、PNGなら透過色にも中間があるので、できれば透明度まで綺麗に縮小してほしい、ところ。ところ。――なぜ、透明度と関係ない部分までモヤモヤになるのっ?
(些細な違い、と言われれば、その通りなのですが、タイムラインにいくつも並んでいるのを見るとやはり、かなり印象が違ってきます……。)

……というわけでありまして、Twitterアイコンを登録するなら、
・精密なデザインをくっきり出したいときは、透明色を諦めて、非透過PNG画像
・ほんの少しぼやけてもいいから背景等を透明にしたいときは、透過PNG画像
が、いいのではないかなあ、という風に思いました。

※もちろん他の画像形式にも長所はいろいろあって、アニメーションしたいならGIF画像、写真アイコンならJPEG画像、かなと思います。今回使用したかったアイコンはJPEG形式に向かないため、比較していません。
できることなら、Twitter側の画像縮小アルゴリズムの改善を希望したい……。

無計画リレー小説 第伍話

【登場人物】
古屋勇太‥‥十九歳。小説家志望のフリーター。祖父の営む古書店でアルバイト中。
美園さおり‥‥十七歳。高校生。勇太の幼馴染で、青果店の一人娘。
古屋繁 ‥‥勇太の祖父。古書店を営んでいる。
ジェイムズ・J・ジェイムズ‥‥伝説の作家。



「待ちなさい!」
そのときだった。
闇の中、一筋の光がさしたような鋭い声で、
「おぞましい化物。勇太をどうするつもり」
と、一喝したのは、美園さおりだった。
手には、実家の青果店から持ってきたのか、白ネギと大根を装備している。
ネギは千住、大根は青首。ともに一般的なやつだ。

「さおり……どうしてここに?」
ありきたりの反応をした勇太に、さおりは、背中のリュックから白くて丸い、ずっしりとした野菜を手渡して、
「これで戦うよ、勇太!」
と言った。
「カブ……?」
「馬鹿、聖護院大根でしょう!」
京都府聖護院発祥の伝統的な京野菜。
球形で重さ2キロ前後。
きめこまかな肉質で甘く、煮くずれしない。
ふろふきや煮ものなどに利用される。
「これで戦うって……?」
わけがわからないよ、と振り向いた瞬間、勇太は愕然とした。

さおりが、聖護院大根の10倍はあろうかという、巨大な、
白いかたまりをリュックから引きずり出していたのである。
「さ、桜島大根っ……!」
「勇太。私にはこんなことしかできない。フリーターだって良い。家の手伝いだって立派だと思う。
でも、人生っていう物語をあきらめたらいけないって思うの」
「あきらめるって、僕は何も……」
「物語を一度整理して、忘れられていたことや、見えなくなった道を、
もう一度、確かめれば良いじゃない!」
さおりは、さっき見たような涙を目に浮かべていた。
(何でこんなに必死なんだろう……?)
勇太は、何と言葉をかけたら良いか分らない。
(ていうか、さおりはどうやってこの空間に入ったんだ……?)

だが目の前の巨人は、事態を把握する間隙を与えなかった。
ガチガチと音を立てる両腕の、おぞましさ。
鋭く尖った無数の刃が、今にも勇太の肉体を擂り砕き、血を噴出させようと地獄の炎を反射している。
あたかも、巨大なおろし金のように……。
「あ、そうか!」
「うん、勇太も分ってくれた!」
見交わす笑顔。
手にした聖護院大根を巨人目がけて投げつけると、
さおりも同じように、巨大な桜島大根を投げ飛ばしたのである。
ハンマー投げの要領で、横向きに一回転して放り投げる。

ジョリジョリジョリ!

巨人の周りに白い粒が飛散した。
粉雪のように舞う、大量の大根おろし。
「勇太、まだあるから!」
次々と放り投げる桜島大根に、聖護院大根、青首大根、白大根。
さおりのリュックはどうなっているのか。

やがて巨人の左右に、大根おろしの山が出来上がったとき、次に起こるべき事態は容易に想像づいた。
すなわち勇太の祖父・繁が、縁台に立ち上がって叫んだ。
「さんまじゃ! 巨大なさんまの塩焼きが来るぞ!」


(つづく)

無計画リレー小説 第四話

そこには赤剥けの皮膚をした人間めいたものが、片手に本を持って立っていた。
 目は丸く金色に輝き、頭部はタコのように膨らんでぶよぶよしている。
 裸だったが、男か女かはっきりしない体つきだった。
 その生き物は勇太の顔を見つめながら、持っていた本を口に持っていって、鋭い歯で齧った。
 まるでパンでも食べるように咀嚼する。それに合わせて、頭部が収縮した。
 異様な光景に見入ってしまったが、勇太はハッと我に返る。
 この生き物の意図は分からない。しかし、本を柔らかい食べ物のように噛み砕く顎の力は相当なものだ。
 襲われて噛み付かれたら、腕など千切れてしまうに違いない。
 勇太は身を守る武器がないかと、本の地平に目を巡らせた。
 そして、二度目の衝撃にたじろぐこととなった。
 たくさんいる!
 勇太は本が積まれてできた、ゆるやかな丘の連なりの中に立っていた。
 そのあちこちに、金色の目をした赤剥けの生き物の姿があった。
 気ままな様子で本をかじり、頭部で消化しているようだった。
 組織立っている気配はないが、勇太は取り囲まれていると考えたほうがいいだろう。
 戦って良い結果になるとは思えなかった。
 あまり刺激したくはなかったが、こちらから話かけてみるしかない。
 何より、目の前のこいつを認識したときに、ジェイムズ・Jの合唱は止まったのだ。
 勇太は震える声で、本を食べている生き物に尋ねてみた。
「す、すいません。あなたがジェイムズ・J・ジェイムズさんですか?」
 生き物はあっけにとられたように口を開け、糊状になった本のページをぼたぼたとこぼした。
 それから獣じみた発音で繰り返した。
「じぇいむず、じぇい、じぇいむず、じぇい……」
 途端にまた合唱が始まった。
 本の丘にちらばる生き物たちが、口々にその名を呼ぶ。
 話にならない。この生き物たちにどれほどの知能があるのかも定かではなくなった。
 途方に暮れかけたとき、上のほうから鋭い口笛が聞こえた。
 そちらに目を向けると、ひときわ高く本が積まれた丘の上に、いつの間にかグレーのスーツを着た白人男性が腰かけて、手招きしていた。
 金髪碧眼。悠然とした様子で、白いティーカップを片手に持っていた。
 三十歳前後に見えるが、着ているスーツのデザインはずっと古いものだ。
 男は流暢な日本語で言った。
「こっちにおいで。僕がジェイムズだよ」
 その言葉が発せられると、赤剥けの生き物たちはみな陰に隠れた。
「じぇい、じぇい、じぇい、じぇい……」と口々に囁きながら。
 勇太は藁にもすがる思いで、本の山を駆け上がった。
「ジェイムズさん!」
 息を切らし、四つんばいになりながら彼の足元にたどり着いたとき、彼はティーカップを傾けていた。ジェイムズが優雅な仕草でティーカップを置くと、本の地面の中から手が現れて、ティーカップをつかんで消えた。
 その手は金属の骨格で、血と皮がまとわりついていた。
 勇太は不穏なものを感じたが、今は彼だけが頼みの綱だ。
 ジェイムズが立ち上がり、勇太に右手を伸ばしてきた。
「ようこそ、勇太。よく来たもんだ」
「ジェイムズさん、助けてください!」
 勇太もジェイムズの右手を取り、訴えるように言った。
 ジェイムズはそれに答えず、左手で辺りを指し示して言った。
「彼らを見たろ。あの赤剥けの。君なら、彼らをなんて呼ぶ? 君のセンスで名付けるとしたら?」
「え? え? えーと、貪るもの、とか?」
 戸惑いながら勇太が言うと、ジェイムズは愉快そうに勇太の肩を叩いた。
「そう、いいね。今日から彼らは貪るものだ! 初めに言葉ありき! そういうだろう?」
 ジェイムズは勇太から手を離して続けた。
「そして、人から出るもっとも汚れたものは言葉。そうとも言うね」
「え?」
「ジェイムズの後を追うか、それともジェイムズに託された仕事を続けるか? どっちしても難儀な事だろう、君なんかには」
「何を言ってるんですか、ジェイムズさん? 元の世界に返してくれるなら、それでいいんです!」
 続くジェイムズの言葉は、会話として繋がっていなかった。
「知識はね、知性と結びついてこそ、いい仕事をするもんだ。例えば、脳を消化器官に改造して、知識を貪る動物を作りあげることもできるんだ」
「何を言ってるんですか……?」
 勇太は一歩二歩と、後ずさる。
 にこやかに微笑んでいるジェイムズの顔面が裂けて、血しぶきが飛んだ。
 その中から赤黒いものが盛り上がり、形をなしてゆく。
 虫が羽化をするように、ジェイムズを名乗った皮がむけて、獣じみた巨人が生まれ出ようとしていた。
 金色の目を獰猛に輝かせて、巨人は叫んだ。
「知ハ力ニ非ズ! 暴虐ヲ奮ウ人間ヨ、原初ノ恐怖ト共ニ動物ヘト還レ!」
 体液の滴る巨人の両腕には、金属でできた拷問器具が剛毛のように生え、ガチガチと鳴っていた。

2012年3月11日日曜日

無計画リレー小説 第三話

【登場人物】
 古屋勇太‥‥十九歳。小説家志望のフリーター。祖父の営む古書店でアルバイト中。
 美園さおり‥‥十七歳。高校生。勇太の幼馴染で、青果店の一人娘。
 古屋繁 ‥‥勇太の祖父。古書店を営んでいる。
 ジェイムズ・J・ジェイムズ‥‥伝説の作家。

「そら」
 勇太を起こそうと手を差し出した祖父の表情はまるで普段どおりで、勇太は拍子抜けしてしまった。
「寝てたって……じいちゃん、俺ずっと寝てたの?」
「あ?」
 今度は繁のほうが拍子抜けしたような顔になる。
「いや、ごめん……」
 反射的に勇太は謝ってしまった。すると更に祖父の顔がゆがむ。
「『じいちゃん、俺ずっと寝てたの?』だと? 第一声がそんな言葉でいいのか?」
「何? 第一声って……」
 かあっ、と痰を吐くような声とともに祖父は納戸の天井を仰いだ。
「古屋の一人前の男が、そんな事しか言えんのか! 情けない奴め!」
 さっきまでの柔和さとは間逆の険しさで勇太の祖父は吐き捨てた。勇太は訳も分からずたじろぐ。
「じいちゃん、さっきから意味が分かんないんだけど……」
 借りてきたロングヘアチワワのように戸惑うばかりの勇太を顧みもせず、繁は納戸から歩み去ってしまった。
「……なんなんだよ」
 一人残された勇太に湧き上がっていた困惑は、ようやく怒りへと切り替わろうとした。しかし、
「もしかしてボケてきてんじゃないだろうな……」
 そんな言葉が浮かんでくると、鎌首をもたげた怒りの炎などはワンタッチガスコンロのように一瞬で消えてしまった。
 祖父が心配になった勇太は作業を一時中断して納戸から店舗へと戻った。
「なあ、じいちゃん」
 勇太は店舗に入ると、カウンターの奥でひとり渋茶を啜っているだろう繁に声をかけた。
「……さっきの事なんだけど、あれっていったいどういう意味なの?」
 その瞬間、勇太は先ほど見た複雑怪奇な夢を唐突に思い出した。
 額縁から飛んできた本の一ページが勇太の額に突き刺さりめり込んでいく、というふざけた夢だった。
『勇太、勝つか負けるかだ』
 その夢の中でも祖父が口にしたその台詞が鮮明に勇太の脳へフラッシュバックする。
「……じいちゃん?」
 祖父の返事はいっさい聴こえて来ない。勇太の心臓が早鐘のように脈打つ。
 店舗にはうずたかく古書が積まれている。その向こうにはカウンターがあり、住居部分への続く階段が見えてくる。
 ――そのはずだった。
「……なんだこれ」
 勇太の目の前のあるのは、古書の山。
 それだけだった。古書の山が、どこまでもどこまでも、どこまでも続いている。
 祖父の姿はどこにもない。ただ夥しい本が遠くまで影となって、古書の地平線を形成していた。
「ウソだ」
 現実にありえない光景に勇太はその場から逃げ出そうと来た道を引き返す。
 だがさっきまであった筈の店舗部分の扉は、それまでが幻だったかのように影も形も見られない。
 ジェイムズ・J・ジェイムズ。
 古書の山から誰かが囁いた。ジェイムズ・J・ジェイムズ。
「誰かいるのか?」
 勇ましく誰何した勇太の声には何も応答はこず、囁きだけが繰り返される。ジェイムズ・J・ジェイムズ、と。
「そこに、誰かいるんですか?」
 恐怖が先立って敬語に切り替える。だがやはり返事はなく、ただ囁きだけが続く。ジェイムズ・J・ジェイムズ。
 絶えず繰り返される囁きは少しずつ数を増して、声を大きくしてゆく。思わず勇太は耳を塞いだ。
「夢だ、また夢を見てるんだ俺は!」
 大声で叫んだ。だがなぜか囁きは塞いだ手を透過して勇太の鼓膜を震わせる。やがてジェイムズ・J・ジェイムズという作家の名前はジェイムズ・Jという二拍子のリズムへと変わってゆく。
 ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J……。
「もうやめてくれ! 助けて! じいちゃん、じいちゃぁん!!」
 両手で耳を塞いだまま気も狂わんばかりに勇太は絶叫した。
 出口はもうない。逃げ場はもうない。誰も助けには来ない。
 勇太の精神が崩落する間際、背後で足音が聞こえた。ジェムズ・Jの大合唱の中にもその足音だけが確かに勇太の耳を、いや脳を刺激したのだ。
 勇太は振り返れなかった。もし足音の主が勇太の想像を超えるような化け物だったら……。
 そう考えると勇太の全身は冷凍マグロのように動かなくなった。
ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J・ジェイムズ・J……。
 大合唱の中を、誰かが本の上を歩いてくる。
『勇太、勝つか負けるかだ』
 突然、祖父のあの台詞が勇太の脳裏によみがえった。まるでその場にいない繁が、孫を励ましたように勇太には感じられた。
「じいちゃん……俺は、負けたくない!」
 勇太は金縛りにかかったように言う事を聞かない身体を無理に動かし、足音の主へと振り返った。そして息を呑んだ。

2012年3月7日水曜日

無計画リレー小説 第二話

祖父の繁(しげる)は、予想外に鋭い眼差しをしている。
 勇太は見咎められたような気がして、伸ばした手を引っ込めた。
 繁は枯れた人差し指を立て、それを振りながら言った。
「その本は一家にとって大事な物だ……」
 唇を湿らせて、さらに続ける。
「……いや、一族にとって、いや、それ以上に重要な物だ。もう残り少なくなってしまったが」
 祖父の言葉は、この本が減っていくと言っているのだろうか?
 どうも意味が分からない。
 だが、祖父の目付きと口調から、勇太は自分が責められているのを感じた。
「ごめんよ、じいちゃん……」
 訳が分からないながらも、勇太はとりあえず謝る。
 一端、この場から離れた方がよさそうだ。
 勇太は納戸から出ようとした。
 そこへ繁が、行く手をさえぎるように立つ。
 これでは納戸から外へ出られない。
 祖父の思惑をつかみかねて、勇太は途惑った。
「じいちゃん……?」
 勇太より頭一つ分背の低い繁は、真正面を睨んでいた。
 勇太の顔も見ずに、決然とした声で断定する。
「その本を見つけたということは、今、呼ばれたということだ」
 それからぎょろりと眼球を動かして、勇太の目を見て続ける。
「勝つ者もいれば、負ける者もいる。おまえはどっちだ、勇太!」
 目は血走り、顔が強張っていた。
 普段は温和な祖父の変わりように、勇太は口もきけなくなった。
 慄き、立ちすくんでいると、ガラスの割れる音がした。
 首を巡らせれば、音の源は例の額縁だった。
『James・J・James』の古本を納めた額縁がカタカタと震えている。
 見ている間にもガラス製のダストカバーに、細かい亀裂が広がっていく。
 勇太は祖父を振り返った。
「一体、どういう……」
 繁は無言で顎をしゃくった。額縁を見ろと。
 勇太は再び額縁に目をやった。
 一枚のページが、ひび割れたガラスを突き破って出てきた。
 古びて黄ばんだ紙片が、風に吹かれたように宙に舞う。
 と、そのページは鋭い円錐形に丸まり、勇太に向かって突っ込んできた。
 その速さに避けることも叶わず、円錐は勇太の額に刺さった。
「うわぁぁぁぁっ!」
 勇太は痛みと恐怖で悲鳴を上げた。
 反射的に両手で引き抜こうとしたのに、それより速く祖父から羽交い絞めにされていた。
 勇太はパニックに陥った。
「じいちゃん! じいちゃん!」
 足を蹴上げ、渾身の力で身をよじるが、繁はびくともしない。
 老人の力ではなかった。
 古紙でできた円錐が高速回転し、ごりごりと頭蓋骨を削る。
「うわぁぁぁっ! じいちゃん、俺死んじゃうよ、じいちゃん?!」
 勇太は涙を流しながら首を回し、繁に助けを求めた。
 繁は笑っていた。壮絶に。
 その瞳は金色に輝き、顔の皮膚には様々な文字が浮かんだり消えたりしていた。
 地の底から響くような超自然の声で、繁は言った。
「勇太、これが古屋の成人の儀だ!」
 くぐもった笑いを立て、金色の目で勇太の目を見据えて続ける。
 その声はまったく愉快そうだった。
「見ろ、勇太! J・J・Jがおまえに入っていく!」
 勇太は限界まで眼球を動かして、上を見た。
 古本の一ページだった円錐が、回転しながらじわじわと頭の中に進入する。
 元の長さを考えれば、もう脳の半ばまでに達していた。
 気が遠くなりかけたとき、不意に声が聞こえた。
「これが勇太か」
 声のほうに目を向けると、おぼろげな白い人影のようなものが見えた。
 不定形な影がもう一つ現れる。積まれた古本のあいだにゆらめきながら言う。
「こちら側にようこそ、勇太」
 さらに続々と漂うものが現れて、勇太の周りで囁きを交わし始めた。
 勇太はもう正気を保てなかった。
「アーッ! アーッ! アァァァーッ!」
 思考は停止し、、甲高い悲鳴を上げ続けることしかできない。
 痛みが極限に達した時、額からピンク色の塊が吹き出した。
 それを見て、勇太は気を失った。
 最後に聞こえたのは、繁のものとも思えない繁の声だった。
「勇太、勝つか負けるかだ、勇太……」

「勇太……勇太……」 
 優しく揺さぶられて、勇太の意識は浮上した。
 がばっと身を起こすと、肩に当たって古本の塔が崩れた。
 心臓が早鐘を打ち、顔面の毛穴が開く。
 勇太は額をさすった。なんともない。
 それから『James・J・James』の古本が収まった額縁に目をやる。
 勇太は息を呑んだ。
 ページが減ってる!
 一瞬だけ気が動転したが、考えてみれば、元々の様子が定かじゃなかった。
 そもそも、自分がいつの間に気を失ったのか、眠り込んだのか、はっきりしない。
 傍らには、柔和な笑顔の祖父、繁がしゃがみ込んでいた。
 繁はにこやかに言った。
「こんなところで寝てないで、こっちきて茶でもやれ」

2012年3月6日火曜日

無計画リレー小説 第一話

【登場人物】
 古屋勇太‥‥十九歳。小説家志望のフリーター。祖父の営む古書店でアルバイト中。
 美園さおり‥‥十七歳。高校生。勇太の幼馴染で、青果店の一人娘。
 勇太の祖父‥‥古書店を営んでいる。
 ジェイムズ・J・ジェイムズ‥‥伝説の作家。



「勇太なんて大嫌い!」
 大声でそう言い捨てて、さおりは走り去っていった。勇太も外へ出て、商店街の奥へと消えて行く彼女の背中を眺めていたけれど、店番中の身で追いかけることもできず、またその気力も無く、肩を落として古書店の中へと戻る。

 勇太の祖父が営む古書店は、この寂れた商店街にある唯一の書店だった。十九歳になったばかりの古屋勇太は、ここで働いている。働くといってもそれは形式上のもので、狭い空間に古書が縦になったり横になったり、物騒に積み上がっているこの店には、客などほとんど来ない。古書を売りたい客も買いたい客も、駅前にある大型チェーンの古書店へ行ってしまうのだ。
 進学も就職もままならなかった勇太は、このかび臭い小部屋で本を読みながら日々を過ごし、祖父に小遣い程度のバイト代を貰う。それが彼の生活の全てだった。

 特に不満があったわけではない。まだ読んでいない本はたくさんあるし、店番をしていれば、金を使う必要も無い。人間関係に悩まされることも無い。むしろこの生活を勇太は心地よく思っていた。でも、さおりはそうは思っていなかったようだ。

 勇太の幼馴染で、二歳年下の美園さおりは、青果店の一人娘だった。商店街の入口に位置する青果店は、寂れたこの一帯の中でも幾分は繁盛してる方で、彼女も毎日忙しく店の手伝いをしている。だけど、さおりは大学に進学するつもりらしい。勇太はさっきまでの、さおりとの会話を思い出していた。

「どうして進学しなかったの?」
 そのことについて尋ねられるのは、もう何度目だろう。
「進学する金もないしさ、店を継ぐなら学歴なんて関係ないだろ」
「奨学金とかあるじゃない。うちも経済的に厳しいけど、頑張って勉強して、特待生を狙ってるもん」
 さおりが鼻息を荒くする。
「さおりとは違うんだよ。俺はそんなに頭も良くないし」
 無造作に積み上がった古書を、無意味に並べ替えながら、勇太は返事をする。
「勇太は、小説家になるんでしょう」
 黄ばんだ本を手に取ったまま、亮太は動きを止める。
「もう辞めたんだ」
「え?」
「小説なんてもう書いてないよ。いつまでも夢みたいなこと、言ってられないだろ。もう辞めたんだよ」
 吐き捨てるようにそう言って、勇太はさおりの顔を見る。それからその表情に動揺する。今にも涙がこぼれそうな瞳。
「勇太なんて大嫌い!」
 本の山が倒れてきそうなほど大きな声でさおりはそう言って、店を出ていってしまった。

 勇太は無気力に古書の入れ替えを続ける。なにもかも無計画だった。これらの本を目的を持って並べ換えているわけではなかった。陽の目を見ず、誰にも読まれず、かといって早々に朽ちていく訳でも無い書籍。
「俺の方が早く、この世から消えちゃうんだろうな」
 適当に手にとった本は、初版第一刷が昭和の日付になっている。この本は勇太よりも長く生きているのだ。

 古いばかりで価値の無さそうな本を、数十冊ほど納戸に移動する。処分してしまえば良いのだろうけれど、勇太は鑑定眼を持っていなかった。もし貴重なものだったらと思うと、迂闊に捨てることもできない。どうせ客なんか来ないのだけれど。

 六畳ほどの納戸には、これまた無秩序に古書が収納されている。本を置くスペースを空けるため、勇太は無造作に置かれたダンボールを、足で移動する。
 どさどさどさっ。大きな音と共に、山積みになった本が倒れてくる。古書の下敷きになった勇太は、うんざりした顔をして起き上がる。元通りに本を片付けるのに、数時間はかかりそうだ。
「あれ?」
 古書に取り囲まれたまま、勇太は立ち上がる。さっきまで本が積み上がっていた壁に、小さな額縁がかかっている。
 勇太は額縁を取ろうとする。価値の分からない古書とはいえ、踏みつける気にはなれないので、本に足場を取られたまま、壁に向かってめいいっぱい手を伸ばす。

 額縁の中に入っているのは、古書の一部のようだった。随分と黄ばんでぼろぼろになってしまった紙。表紙は無く、冒頭の数ページのみが額に収まっている。中扉と思われるページに、『James・J・James』と記されている。
「それを見つけてしまったんだな」
 勇太が振り返ると、納戸の入口には、敬老会に行っていたはずの祖父が立っていた。

無計画リレー小説について

こんにちは、山田です。唐突な思いつきで、無計画にリレー小説なんかやってみたいなあと思います。第一話をとりあえず書いてみました。誰か続きを書いてくれると嬉しいなあ。誰も書いてくれなかったら、泣きながら一人でリレー小説します。



参加資格

無計画書房に投稿できる人。


参加ルール

書き手さんがだぶっちゃうともったいないので、続きを書きたい人は、その回のコメント欄に「書きます表明」をして下さい。第四話を書きたいと思ったら、第三話のコメント欄に「続きを書きます」って感じで。コメント欄に一番乗りの人が、続きを書いて下さい。


登場人物について

登場人物が増えたら、冒頭の【登場人物】の欄に追加しといて下さい。ネタバレが嫌だったら、文末でもいいです。


どのくらいの長さで書くの?

好きなように書いて下さい。でも原稿用紙換算300枚とかなっちゃうと大変かもです。


いつ終わるの?

無計画です。でも完結したら、あわよくばパブーにまとめ本なんか作りたいですねえ。


作品のタイトルについて

完結するまで無題のままにしときましょうかね。



第一話はこちらです。あとはまかせた!

2012年3月1日木曜日