2012年2月25日土曜日

信じてなんかいないのに


すべては嘘から始まった。
元々は、たまたま拾ってポケットに入れていた、ただの石ころだった。墓石屋からこぼれたのだろうか、小さな御影石の欠片。
「これは、魔法の石なんだよ。プラズマの力で人を幸せにする不思議な石なの」
転んで泣きじゃくる小さな子どもの、擦り傷だらけになった膝にそっとその石を当てながら、私はそう言った。
子どもをあやすための、その場かぎりの嘘でしかなかった。それなのに。
──子どもは泣き止み、私に微笑みかけた。気がつけば、その子の母親らしき人物が近くに来て、私にお礼を言っている。
別に対した事をしたわけではない。子どもの膝の傷も生々しいままで、手当をしてあげられたわけでもない。ただ、口からでまかせを言っていただけだ。
去っていく母子にお辞儀をしながら、手のひらの中の小さな石ころをぐっと握った。
魔法なんて、何も無い。何も無いのに。
それを私はまだ捨てられないでいる。

1 件のコメント:

ひやとい さんのコメント...

あ、抜けてた。

叙情系できましたね。
そういうことはたぶんあるかもですね。