2012年2月6日月曜日

降竜注意報

渓谷から吹いてくる風の中にオゾンの匂いが混じり始めた。
 もうじき紫電竜の恋の季節が始まる。
 作物を育てることのできるわずかな土地にしがみついている人々にとっては、黒こげになった牝の紫電竜が畑に落ちてこないことを祈り続ける日々の始まりをも意味している。
 紫電竜は、繁殖力を強めた戦闘竜が野生化したものを祖先としているだけあって、毎年毎年発情期がやってくる。一年中発情している人間の側からいうのは少し奇妙な感じだが、まぁおさかんなことだ。
 巨人も森妖精も、祖竜も世界から去った。古の賢人達もまた空の向こうへと旅立っていったという。
 残されたのは獣たちと哀れなハダカザル、それから空飛ぶ巨大トカゲだ。
 今日もまた、降竜注意報が発令される。

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