2013年4月18日木曜日

標高

標高が高くなるほどに
孤独が身を削いでいき
置いてきた荷のことを思う

山頂も
目的地も
まるで見えないのに
迷いなく
歩むふりをする

どこかで下山しなければいけない

山の中腹で死ぬか
良くても山頂で死ぬか
そのどちらかだ

2013年4月14日日曜日

僕は彼女に恋をした


 僕は彼女に恋をした。
 恥ずかしながら、一目惚れだ。
 初めて彼女を目にした瞬間、曇っていた世界が晴れ渡り、今まで見ていた世界が嘘だったかのようだった。
 でも、彼女を見たのは一瞬だけ。
 すぐに彼女はどこかへ消えてしまった。
 僕は慌てて彼女のいた場所へ走って行って見たのだけれど、見つける事はできなかった。
 見つけて、それでどうするつもりだったんだ?
 声をかける?
 一目惚れしましたって?
 それとも、お茶でもいかがですかって?
 そんなこと、小心者の僕にはできないのは嫌なほどわかっていたけど、それでも探さずにはいられなかったんだ。だって、それが恋ってもんでしょ?
 それ以来、彼女のことが頭から離れなかった。
 一瞬だけ見えた彼女の姿。
 霧のようにぼんやりと、幻想的で白い肌。
 影のように黒い髪。
 彼女の笑顔。
 笑い声。
 いつの間にか僕の脳みその中に彼女が住み着いてしまっていて、思わぬところ彼女が顔を覗かせる。
 横断歩道、曲がり角、高校の校舎。
 そんなところにいないはずの彼女を見かけては、わかってはいながらも、ついつい追いかけてしまう。
 そして、いつも彼女の幻想を追いかけて、知らない場所に迷い込んでしまう。
 恋の病とはよく言ったもので、日常生活に支障が出るほどに僕は彼女に恋をしていた。

 そんな、ある日。
 僕は彼女の噂を聞いた。
 間違いないと思った。
 間違いなく彼女だ。
 もうこの街にはいないかもしれないと思っていたけれど、まだこの街にいたんだ。
 会えるんだ。
 僕は胸を躍らせ、彼女との出会いばかりを想造するようになった。
 街角で突然出くわす。
 学校の廊下ですれ違う。
 どう、声をかければいいのだろう。
 幾つもの妄想をいだいてはそれを打ち消していく。

「一目見た時から、君のことが好きでした」
 彼女は驚いたように僕の顔を覗き込む。
「今も好きです」
「本当に?」
 彼女の声は、綺麗で、可愛い。まるで森の小鳥の囀りのようだ。
「今更、嘘なんて付きません」
「嬉しい」
 彼女の笑顔はとても美しい。人を幸せにする笑顔だ。
「でも、残念」
 彼女は目に涙を浮かべる。宝石のようにきらびやかで、澄んだ涙。
「どうしてですか?」
「だって……」
 彼女は俯いたまま、黙りこんでしまう。
 困ったな、と僕は思う。
 もう、時間がないのに。
 分断された腹からは止めどなく血が流れ出し、時折、吐き気とともに血の匂いが口の中に広がる。
 もっと彼女と話したいのに。
 さっきまでくっついていた僕の下半身を、ぼとりと取り落とす。
 頬を伝った涙が、僕の鼻に落ちた。
「泣かないで下さい」
「でも……」
 僕は間もなく死ぬだろう。
 助かる見込みなんて無い。
 でも、僕は今、幸せな気分で満たされている。
 ただ、欲を言えば、彼女ともっと話していたかった。

 彼女はテケテケ。
 
 名前はまだ教えてもらっていない。


 了


 <テケテケを知らない人のための補足>
  都市伝説アーカイブストップ
  現代妖怪 > テケテケ
  http://www.td-archives.net/a01/post-2.html

2013年4月12日金曜日

排他的聖域の宿命とクリミナルタイプジェネレーション

 一、サンクチュアリ

(1)

 風か強くて思わず目を閉じる。自転車がバランスを崩しながら私の横を通りすぎる。
 公園を右手に見ながら坂道をのぼる。緩やかな坂道だ。公園のさくらはつぼみを大きくして、今か今かとその開花のときを待っているようだった。
 太陽は天高く輝き、草木は音をたてて風に揺れる。私はひとりきり歩く。ひとりきりだ。私はこの街でひとりきりだった。友人はもちろん、知り合いもいない。他人と話すのは買い物のときくらいで、それ以外の時間はこうやって散歩をしたり、本を読んだりして過ごしている。
 ひとりは気楽だし、何よりも自由だ。生活の心配は多少あるけれど、働いていた頃に貯めた預金がけっこうあったし、退職金もそれなりにもらえたから、概算して一年程度ならなんとかなりそうだった。日々の出費を切りつめれば、もう少し長い期間仕事に就かなくても大丈夫だろう。
 そもそも、散歩と読書くらいしか趣味がないのだ。ひとりでお酒を飲むことは好きだけれど、高価なシャンパンとかワインとか身の丈に合わぬものをゴクゴク飲むわけじゃない。友達も知り合いも恋人もいないから、交際費は一切かからない。どう間違っても興味を持てない洋服や宝飾品にお金をかけることもない。だから、お金の使い道なんてほとんど限定されている。
 私は公園に立ち寄る。いつもならどこに行くとしても小一時間ほどベンチに座って本を読むのだけれど、今日はやめることにした。ただでさえ手入れの行き届いていない長いだけの髪が巻き上げられてボサボサになってしまうほどの強風なのだ。とても本を読める環境じゃない。
 私は公園の真ん中に立って三百六十度あたりを見渡す。木々が震え、土埃が舞っている。ブランコは人の力を借りず揺れ、フェンスはガタガタときしんでいた。
 春はすぐそこまできている。私はすでに春を感じている。四季の移り変わりをしみじみと感じるようになってきたのは、きっと歳を重ねたせいだろうと思う。あるいは、仕事や人間関係という煩わしいものものから解放されたせいもあるだろう。私は首を縮め、強風から身を隠すようにスプリングコートの襟をすぼめた。
 私は公園を出て、坂道に戻る。ここをのぼり終えると路面電車の停留所がある。車が行き交う大通りだ。排気ガスと焦げたゴムの臭いがする国道にこの坂道は突き当たる。
 その大通りを私は右に曲がる。トラックが3台、列をなして大きなタイヤをアスファルトにこすりつけ、よどんだ空気に轟音を響かせる。歩道はあるけれど、歩行者はあまりいない。JRの駅からだいぶ離れているし、この道自体に魅力が乏しいから仕方がない。もう少し先まで行けば大きな商業施設があって、そこには溢れんばかりの人がひしめいていることだろう。
 でも、私はそこに行かない。特に用はないし、人ごみはどうしても好きになれない。今日買いに行くつもりの下着はその商業施設の中ではなく、繁華街のはずれにある小さな店で売っている。安価でみすぼらしい下着。積極的に見せる誰かがいるわけじゃないから、私にはこれで十分だ。
 黒のミュールはとても履き心地が悪かった。雨の降った翌日に舗装されていない道を歩くときの感覚に似ている。何年も前に他人からもらったものだから文句の言いようもないのだけれど、足にフィットしていないし、かかとも高すぎる。今日に限ってなぜ履き慣れたスニーカーにしなかったんだろう、と私は後悔した。気まぐれはたいてい良い結果をもたらさない。
 私は一階にコンビニエンスストアが入っている高層マンションの横を抜け、大きな郵便局がある道へと足を向ける。左手には運動場があって、野球をしている少年たちの叫び声が聞こえる。同じ敷地にあるテニスコートは無人だ。こんな風の強い日にすすんでテニスをしようとする人はいないのだ。ごく自然に考えて。
 郵便局がある道を真っ直ぐ進むと真新しい図書館がある。蔵書がどのくらいあるのかよく知らないけれど、私の住むマンションの近くにある旧時代的な図書館よりもずっと多いはずだ。
 私は図書館の手前にある十字路を右に入る。片側二車線ある広い道と軽自動車が一台ギリギリ通れるくらい狭い道の交差した場所だ。果たしてこれを十字路と呼ぶべきかどうか、私には合理的な答えもそれに代わる別の答えも導き出せない。もし他人にこの交差点について説明するとしたら、私は十字路と呼ばないかもしれない。今の私にはいらぬ心配だけれど。
 道の左側、三件目が私の目的地だ。高度経済成長期の初めに建てられた木造住宅のような店がそこにはある。四階建ての雑居ビルと古いアパートに挟まれ、窮屈そうにしているその店はとても女性用の下着を販売しているように見えない。まず店に見えないと言った方がより正確かもしれない。
 私は木製の引き戸を開けて店に入る。中には所狭しとブラジャーやショーツが陳列されている。「いらっしゃい」としゃがれた声をかけるのは、いつもいる七十代か八十代か、とにかく幼いころ絵本で観た魔法使いみたいにシワだらけの顔をした老婆だ。
「しばらくだね」
 彼女は続けて言う。私は会釈をして、「どうも」と返事にならない言葉を返した。
 店の一番奥に一番安い品物がある。手前にあるのはワコールやトリンプなどの有名メーカーのものだ。機能性やデザインを考慮しても、私には必要のない代物でしかない。私は隠すべきところを隠すことができればそれでいい。極端にいえばそれがイチジクの葉だっていいのだ。
 私は棚に無造作に置かれたベージュの上下を二セット、黒のショーツを一枚鷲掴みにして、早足で老婆のいるレジに向かう。レジで待っていた老婆は私からそれらを受け取り、暗算で代金の額をはじき出して、私に伝えた。
「ありがとう。またおいで」
 私が彼女に言われた通りのお金を支払うと、老婆は老婆の愛嬌をたずさえた笑顔を見せる。私は下着の入った茶色の袋を抱えて、逃げるように引き戸を開けて風の中に戻った。
「はあ」
 私は大きく息を吐いた。ため息ではなく、深呼吸でもない。ただ、単純に、一生命体の無意味な行為として息を吐いた。この店は現在の私と過去の私との、唯一の接点だ。利用した回数はたかが知れているけれど、今住んでいる街に越してくる前から私はここで下着を買っていた。
 来た道を戻ろうとしたとき、十代半ばくらいの女の子とすれ違った。何の気なしに振り返ると、その少女はさっきまで私がいた店にゆっくりと入っていくところだった。
 この店を利用している他人を見たのは初めてだ。もっとも店として営業している以上、客が私ひとりのはずがない。今まで偶然に誰とも会わなかっただけだろう。考えてみれば私だってそう頻繁にこの店に通っているわけじゃない。いいところ月に一度来るか来ないかだ。その程度でいかにも常連のような顔をしているのもおかしな話だ、と思う。
 狭い道に風が通り抜ける。私は胸に茶色の袋を抱き締める。髪がたなびき、地味な色のスカートがふわりとめくれ上がりそうになる。風が強いとわかっているのに今日に限ってなぜスカートなんてはいてきたんだろう、と私は後悔した。気まぐれはたいてい良い結果をもたらさないのだ。

2013年4月6日土曜日

無計画書房は「第2回福岡ポエイチ」に出展します

こんにちは山田です。
なにやらなりゆきで「第2回福岡ポエイチ」に出展する運びとなりました。

予定としては

 ・てきすぽどーじんバックナンバー
 ・てきすぽどーじん6号
 ・北九州市短編集 きた☆たん
 ・山田佳江の個人誌をなにか(未定)

あたりを出展しようかなあなどと目論んでおりますが
これから先どうなるかわかりません。

福岡ポエイチは2日間の開催ですが、
無計画書房は、2013年6月9日(日)の出展です。
ブースには山田佳江がいます。たぶんいます。

相変わらず無計画です。



福岡ポエイチの詳細はこちらです。

福岡ポエイチ


2013年4月1日月曜日

第一回 武力としての文学大賞 募集要項



1.はじめに

「文学は力である」
 19世紀のフランスの作家フェルディナンド・ブレアルはそう記しています。確かに文学は人を魅了し、時には恋をさせ、人の人生に転機を与えることもあります。一定の時間、その物語の中に没入させるだけでも、それは大きな力であると、フェルディナンドは述べています。文学は歴史の中で多くの人々に影響を与え、多くの人を幸せに、あるいは悲しみを慰めてきました。かの奴隷解放宣言で有名な米国大統領・リンカーンに多大なる影響を与えたといわれる作家・ランガーの小説「七つの顔」では人種が混ざり合ったユートピアが描かれおります。その後、「文学の力」とはこういったポジティブな側面で語られる事が多くなっています。
 しかしながら文学の力とは果たしてポジティブな側面だけなのでしょうか?ネガティブな力もあるのではないでしょうか?人々が目を向けようとせず、それを文学の「力」であるとは認めようとしないがために、今まで無視され続けてきたのではないでしょうか?
 文学の負の側面、力、そんなものが本当にあるのか。それは賛否両論を受ける問題ではありますが、ただそう言われるだけの側面があるのもまた確かです。
 例えば、有名なイギリスの殺人鬼ジョン・マーロンはサディスティックな内容で社会問題となった小説「花弁」を愛読し、その内容を諳んじることができたと言われています。彼が死刑に処される前、「花弁」の中の一説「私は幸福だ。愛ゆえに殺されようとしている」を最後の言葉として残したと言われています。
 また、アフリカの過激派テロリストPUFの団員たちは南アフリカの黒人作家の著書「餓え」を持ち歩き、初期にはその作品の中にある反政府組織を範とした組織体制やテロ行為が見られていました。
 さらに本邦においても鳥待月愚の小説「少年の老い」の影響を受けた青年が数名自殺に及んだという事件が当時の新聞で問題視されました。
 このように文学には 文学には負の力、ある種の暴力や武力、が秘められているのではないでしょうか?文学は人を幸せな気持ちにさせるだけとは限りません。時には憂鬱にさせ、悲しませ、あるいは怒りを覚えさせます。そしてもっと強力な文学の力は人々を闘争に駆り立て、暴力を促し、死を魅力を増大させ、想像の飛躍が許されるとすれば戦争の遠因にすらなる可能性があります。
 この度、創作テロリスト集団・無計画書房では、文学の負の力を武力として蓄えようという思想のもと、負の力をもった文学を広く募集するため「第一回 武力としての文学大賞」を開催することと致しました。詳細に関しては以下のとおりです。

2.募集内容

  広義の負の力を持った文学作品

  例
  1.不道徳的な行為を促す作品(暴力行為を促す、自殺を促すなど)
  2.人に不快な感情を催させる作品
  3.人を特定の思想に固執させる作品
  4.社会的秩序を崩壊させる作品

  *注意事項
   個人や特定団体に対する誹謗中傷文章は単純かつ効果的な力を持ちますが、テロ行為が摘発される可能性があるため今回は該当外とさせて頂きます。

3.募集期間
  
  2013年4月1日~2014年4月1日

4.文章量

  指定なし

5.選考方法

  競作サイト「てきすとぽい」での不特定多数に依る評価、および無計画書房員による評価を総合的に加味する。

6.賞金

  作品が人や社会に与える影響を書房員が試算しそれに応じた賞金を与えるものとする。

7.文学テロリスト養成
  
  優れた作品を書いたものには、文学テロリスト養成のための援助を行う。ゆくゆくは文学テロリストとして、文学に依るテロ行為を行う実行部隊の成員として活躍していただく。

以上
諸君の検討を祈る。

無計画書房 創作テロ事業部 文学テロリスト養成課 課員 茶屋休石

*2013年4月1日のエイプリルフールネタです。実際の開催予定、およびテロリストの募集は行っておりませんのでご了承下さい。また、「はじめに」に登場する作家、殺人鬼、テロリストは全て架空の存在です。