2013年3月18日月曜日
守りたいもの
危ない!
そう思うよりも先に体が動いていた。自分でも驚くほどの跳躍で、道路へ飛び出すと彼女を突き飛ばした。
地面に着地する前に、横合いから衝撃を受けて、別の方向に吹っ飛んでしまう。
そして、嫌な音とともに地面にぶつかった。
何が何やら自分でもよくわからなかった。景色はめまぐるしくかわり、頭に受けた衝撃のせいで朦朧としている。しばらくして、体に強い痛みを感じる。思考はぼんやりとしているというのに、激痛だけはしっかり感じるというのはなんとも嫌な皮肉だ。
俺をひいたトラックの運転手が車から駆け降りてきて、青ざめた顔をしている。どうしていいかわからないようで、車と俺の間を右往左往している。
早く救急車呼んでくれよ、と思う一方で、救急車が来た所で俺は助かるのだろうか、という気持ちもある。
自分の体をみてみると、手足は変な方向を向いているし、関節からは赤に混ざって薄っすら白いものも見えている。胃の中からは何かがせり上がってくるようで今にも吐きそうだし、服はボロボロで、徐々に染み出す赤いものでどんどん元の色がわからくなって言っている。
体中を襲う痛みを感じながらも、俺は意外と冷静だった。
満足感すらあった。
なんといっても彼女を守れたのだ。
彼女の命を救えたのだ。
それだけではいいではないか。
そうだ、彼女は?
彼女は無事なのか?
首はちょっと動かすだけでもとてつもない激痛があるが、それでもひねって彼女のいるである方向を確認する。
彼女は両足で立ち、ぼんやりとこっちを見ている。目の前で起きた光景が信じられないとでも言うように。
よかった。
無事だったみたいだ。
彼女を守ることができた。
よかった。本当に。
そう思うと、次第に意識がぼんやりしてくる。
ああ、これが死ぬってことなんだな、何もいいことのない人生だったけど、最後に彼女と出会えて、彼女を守れて本当に良かった。
そう言えば、死ぬ前って走馬灯ってやつを見るんだよな。
彼女との思い出を見ながら死んでいけるなんて、自分には幸せすぎるぐらいの死に方だ。
ただ、彼女とはもう少し過ごしていたかった。
彼女の笑顔。
彼女の困った顔。
彼女の甘えるような声。
照れた時に出す癖。
何もかも
思い出せない。
あ、れ?
なんだろう。
何かが
おかしい
俺は、彼女を
知らない。
そもそも、俺に彼女なんていない。
俺は今日たまたまこの道を歩いていただけだ。
デートしていたとかそういうわけじゃない。
誰だ、あの女。
その時、俺の方を呆然と見ていた女が、ニタリと笑って消えた。
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