2012年12月30日日曜日

歩み


 雨だれの音に続いて屋根の雪がドスンと落ちる。
 その音に目を覚ましてみると、すっかり夜になっていた。明日は月曜日だからこのまま寝てしまったほうが良いなと思ったが、考えてみれば明日は休日だ。
 なんだかもったいない気になって身を起こすと、窓を開けて煙草に火をつけた。
 ライターの灯火が一瞬の雪景色を照らしだす。空は曇り、月明かりは無いが遠くの街灯の光がわずかに庭の風景を照らしている。
 吐く息は白い。煙草の煙を吐き出し尽くしても、息は白いままだ。
 部屋の明かりを点ける気にはなれず、ぼんやりと外の暗がりを眺めていると一匹の猫が雪の中を通り過ぎてゆくのが見えた。固く固まった氷雪の上を軽やかな足取りで進む猫はやがて見えなくなった。
 体が悲鳴をあげ始めたところで、窓を閉め、再び布団に潜り込む。なんだか目が冴えてしまったが、布団の温さから這い出ることもできない。かと言って暖房をつけても、何かしようとする気にはなれぬのだ。
 ふと、いつの間に冬になってしまったのだろうと思う。
 ついこの間まで秋だったのではなかろうか。
 夏はこの前終わったばかりで、梅雨のじめじめは今でもありありと思い出せる。ついこの間まで蝉が鳴いていたような気がするし、その横でメジロが囀っていた気もする。
 過ぎ去ってみればどの季節も一瞬であった。
 めまぐるしい瑣末な日常に圧倒され、ふと立ち止まって見る季節というものは人生の中で見ればそれほど長くはない時間だ。
 肌で季節の流れを感じながらも、目や耳は生きるための雑事に酷使され、いつも麻痺しているのだ。気づく暇もなく、季節は流れていく。
 例えば物思いに耽るあまり、確かに通り過ぎたはずの道を一向に思い出せなくなるのと同じだ。
 何も感じずとも生きていける。風景など眺めずとも足は動いてゆくのだ。
 そうやって、これからの人生の季節も通り過ぎていってしまうのだろう。

 もうすぐ、今年も終わる。

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