2012年3月14日水曜日

無計画リレー小説 第伍話

【登場人物】
古屋勇太‥‥十九歳。小説家志望のフリーター。祖父の営む古書店でアルバイト中。
美園さおり‥‥十七歳。高校生。勇太の幼馴染で、青果店の一人娘。
古屋繁 ‥‥勇太の祖父。古書店を営んでいる。
ジェイムズ・J・ジェイムズ‥‥伝説の作家。



「待ちなさい!」
そのときだった。
闇の中、一筋の光がさしたような鋭い声で、
「おぞましい化物。勇太をどうするつもり」
と、一喝したのは、美園さおりだった。
手には、実家の青果店から持ってきたのか、白ネギと大根を装備している。
ネギは千住、大根は青首。ともに一般的なやつだ。

「さおり……どうしてここに?」
ありきたりの反応をした勇太に、さおりは、背中のリュックから白くて丸い、ずっしりとした野菜を手渡して、
「これで戦うよ、勇太!」
と言った。
「カブ……?」
「馬鹿、聖護院大根でしょう!」
京都府聖護院発祥の伝統的な京野菜。
球形で重さ2キロ前後。
きめこまかな肉質で甘く、煮くずれしない。
ふろふきや煮ものなどに利用される。
「これで戦うって……?」
わけがわからないよ、と振り向いた瞬間、勇太は愕然とした。

さおりが、聖護院大根の10倍はあろうかという、巨大な、
白いかたまりをリュックから引きずり出していたのである。
「さ、桜島大根っ……!」
「勇太。私にはこんなことしかできない。フリーターだって良い。家の手伝いだって立派だと思う。
でも、人生っていう物語をあきらめたらいけないって思うの」
「あきらめるって、僕は何も……」
「物語を一度整理して、忘れられていたことや、見えなくなった道を、
もう一度、確かめれば良いじゃない!」
さおりは、さっき見たような涙を目に浮かべていた。
(何でこんなに必死なんだろう……?)
勇太は、何と言葉をかけたら良いか分らない。
(ていうか、さおりはどうやってこの空間に入ったんだ……?)

だが目の前の巨人は、事態を把握する間隙を与えなかった。
ガチガチと音を立てる両腕の、おぞましさ。
鋭く尖った無数の刃が、今にも勇太の肉体を擂り砕き、血を噴出させようと地獄の炎を反射している。
あたかも、巨大なおろし金のように……。
「あ、そうか!」
「うん、勇太も分ってくれた!」
見交わす笑顔。
手にした聖護院大根を巨人目がけて投げつけると、
さおりも同じように、巨大な桜島大根を投げ飛ばしたのである。
ハンマー投げの要領で、横向きに一回転して放り投げる。

ジョリジョリジョリ!

巨人の周りに白い粒が飛散した。
粉雪のように舞う、大量の大根おろし。
「勇太、まだあるから!」
次々と放り投げる桜島大根に、聖護院大根、青首大根、白大根。
さおりのリュックはどうなっているのか。

やがて巨人の左右に、大根おろしの山が出来上がったとき、次に起こるべき事態は容易に想像づいた。
すなわち勇太の祖父・繁が、縁台に立ち上がって叫んだ。
「さんまじゃ! 巨大なさんまの塩焼きが来るぞ!」


(つづく)

2 件のコメント:

takadanobuyuki さんのコメント...

・・・なんという

U.C.O. さんのコメント...

ええと…次書こうと思います。
(時間かかってしまったら、申し訳ありませんー。)