2012年3月21日水曜日

卒業 - Our journey has just begun.


 だいたい、卒業式に桜なんてできすぎている。桜の開花予想は毎年3月の終わり頃だし、春一番という名のアニメ版ジャイアンみたいな風が吹くか吹かないか悩んでいるあたりに、たいてい卒業式ってのはとり行われる。誰が卒業≒桜ってイメージを植え付けたんだ?
 ほとんどの卒業生はたいして深い感動などなくこの学校を出ていくわけで、長野県民以外は校歌なんてものの1週間もすれば忘れてしまう(秘密のケンミンSHOW情報だが、長野県民は大人になっても卒業した学校の校歌を覚えているそうである)。大学に行けば夏はテニス、冬はスノボみたいなフヌケたサークルに入って頭の中をフニャフニャにされ、女ばかり追いかけてユニクロからH&Mにクラスチェンジしたりして、2、3年後には、「ああ、就活めんどくせえ」とか言ってるに決まってるんだ。着る洋服をユニクロからH&Mにすることがクラスチェンジかどうかなんて知らないけど。
「はあ」
 僕はせいぜい小学生が掘る落とし穴程度には深いため息をついた。
「晴れの卒業の日になにため息なんてついてるのよ」
 声をかけられて立ち止まり、振り向くと、そこには茜がいた。
「おまえかよ」
「なによ、その顔」
「生まれつきこの顔なんだが」
 茜に悪態をつくのも今日が最後か。そう思うと少し寂しい気もする。
 茜とは3年間同じクラスだった。1年のときにとなりの席だったことをきっかけに何となく話すようになって、気がつくと顔を合わせれば悪態をつきあうほどの仲になっていた。たぶんいい意味で。この学校に入って男友達も女友達も何人かできたが、その女友達の中で最も仲のいい友だちとでも言っておけば、まあ、角も立たないだろうか。
「生まれたときは今よりずっと可愛かったわよ。知ってる? 赤ちゃんって可愛いのよ。ちっちゃくて、やわっこくて、しわしわで、ふにゃふにゃで、ぽにょぽにょなのよ」
「知らない」
 そう言って、僕は歩き出した。
「ちょっと、どこ行くのよ」
 茜が駆け足で追いかけてくる。

「フッ、どこだっていいじゃねえか。俺たちの旅はまだ始まったばかりだぜ!」


                                                    ...The END



今まで応援ありがとうございました! 冬雨先生の次回作にご期待ください!

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